- 時期
- 1400–1490年
- 地域
- イタリア(フィレンツェを中心に)
- 時代
- ルネサンス
初期ルネサンス
15世紀のイタリア、とくにフィレンツェで展開した美術。線遠近法と人体の観察、古代ギリシャ・ローマへの関心を柱に、中世の絵画から現実の空間と人間を描く絵画へと大きく転換した。
解説OVERVIEW
定義と時代背景
初期ルネサンスは、15世紀のイタリアで、フィレンツェを中心に展開した美術を指す。イタリア語で「1400年代」を意味するクアトロチェントとも呼ばれる。毛織物業と金融で栄えた共和国フィレンツェでは、メディチ家をはじめとする銀行家や同業組合、教会が競って建築や美術を注文し、古代ギリシャ・ローマの学芸を学び直す人文主義が広がった。14世紀のジョットが切り開いた人間らしい表現を受け継ぎ、建築家ブルネレスキ、彫刻家ドナテッロ、画家マザッチオらが1420年代に新しい様式を打ち立て、それがイタリア各地の宮廷へと広がっていった。
造形上の特徴
最大の特徴は、ブルネレスキが実験で示し、アルベルティが『絵画論』(1435年)で理論化した線遠近法である。画面の奥の一点に線が集まるよう建物や床を描くことで、壁や板の上に現実と地続きの空間を作り出した。人物は観察にもとづいて量感をもって描かれ、光と影で立体があらわされる。絵具は卵を媒剤とするテンペラと壁画のフレスコが中心で、世紀後半には北方から伝わった油彩が加わる。幾何学的に整った空間、はっきりした輪郭と明るく均一な色、古代風の建築や衣装が、見分ける手がかりになる。
代表画家と代表作
マザッチオが1420年代後半に描いた壁画《三位一体》(サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂)は、線遠近法を本格的に用いた最初期の絵画とされる。続いてフラ・アンジェリコ、パオロ・ウッチェロ、フィリッポ・リッピ、ピエロ・デラ・フランチェスカ、マンテーニャらが、宗教画や肖像画に新しい空間と人物像をもたらした。世紀後半のフィレンツェでは、サンドロ・ボッティチェッリが《春(プリマヴェーラ)》(1480年頃)や《ヴィーナスの誕生》(1485年頃)で古代の神話を大画面に描き、ギルランダイオが同時代の市民の姿を宗教画に写し込んだ。若いレオナルドの《ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像》(1474〜1478年頃)は、肖像画に油彩と屋外の風景を取り入れている。
前後の流派との関係
初期ルネサンスは、14世紀のジョットらの人間らしい表現と、宮廷を中心に広まった国際ゴシック様式の華やかさを土台に生まれた。15世紀後半には、フランドルから伝わった油彩技法と細部の写実もイタリアの画家たちに取り入れられる(北方ルネサンス)。世紀末になると、レオナルド・ダ・ヴィンチが空気遠近法やスフマートで人物と空間をより自然に溶け合わせ、ミケランジェロ、ラファエロとともに盛期ルネサンスを築いた。線と輪郭で形を組み立てる初期ルネサンスの絵画は、光と大気で形をまとめる盛期の絵画へと移っていく。