《羊飼いの礼拝》
- 作者
- アンドレア・マンテーニャ
- 制作年
- 1450–1459年
- 素材
- 板からキャンバスに移し替え / テンペラ
- 寸法
- 40 × 55.6 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館
- 時代
- ルネサンス
- 流派
- 初期ルネサンス
岩場に聖母がひざまずき、裾の上に横たわる幼子を拝む。幼子のまわりを金で照らした小さな天使が囲む。左ではヨセフが眠り込み、右からはぼろをまとった二人の羊飼いが近づく。奥には川の蛇行する緑の野が広がる。
概要
《羊飼いの礼拝》は、北イタリアの画家アンドレア・マンテーニャが1450年を少し過ぎたころに描いたテンペラ画で、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する。館の記録では、もとは板に描かれ、のちにキャンバスに移し替えられたもので、全体は縦40センチ、横55.6センチ、描かれた画面は縦37.8センチ、横53.3センチ。所蔵番号は32.130.2で、第606室に展示されている。館の紀要(2009年、K. クリスチャンセン)は、制作を1450年から1457年頃とする。館長の序文は、わずか縦15インチ、横21インチの画面に一つの世界が詰め込まれた、館のルネサンス絵画で最も記憶に残る作品の一つとしている。
画面の読み解き
館の解説によれば、天使から誕生を知らされた羊飼いたちが、生まれたばかりのイエスに会いに来る。そのお告げの場面は画面の右上に描かれている。羊飼いたちは、豊かに描き込まれた自然の中で休む聖家族を見つける。マンテーニャは聖母子を地上と天上をつなぐものとして描き、聖母の青と金の衣は、幼子のまわりをめぐる天使たちの雲へと続いている。紀要によれば、古典風の衣をまとって眠るヨセフは、今にもひざまずこうとする当世風のぼろ着の二人の羊飼い、一人は手を合わせ、一人は帽子を脱いだ姿と対比される。聖母は一心に祈り、短縮法で描かれた幼子は聖母の衣の裾に横たわって、金で顔を照らした天使たちに囲まれる。牛は草を食むのに夢中で、ロバは不思議なことに描かれていない。蛇行する川の一方の岸では羊飼いが天使に迎えられ、もう一方の岸では樽を二つ持った男が船の到着を待っている。
技法・様式
紀要によれば、マンテーニャはポー平野の穏やかな空の下に深い風景を描き、人文主義者グアリーノ・ダ・ヴェローナが詩で描いた春の情景に応えようとしたかのようである。刈り込まれた柳は新しい芽を伸ばし、ヨセフが寄りかかるオレンジの木は日に輝く実をつける。前景の岩の割れ目から草が生え、川面は穏やかな岸辺に波を寄せる。館の解説は、本作の様式が、フェッラーラで流行していたネーデルラント絵画への応答とみられるとし、紀要も、粗い顔立ちの羊飼いや風景の細やかな描写は、ネーデルラント絵画への賛嘆を映すと長く考えられてきたとする。前の君主レオネッロ・デステは、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンに祭壇画を注文していた。当時のエステ家の宮廷では詩と絵画の優劣が論じられており、本作は、絵画は詩の描写力に及ばないという見方への、画家なりの答えでもあったと紀要は述べる。
来歴
紀要によれば、マンテーニャは本作を、パドヴァのオヴェターリ礼拝堂の壁画に取り組んでいたころに描いた。編み垣の上に下がる瓜が、フェッラーラの君主ボルソ・デステが好んだ紋章の図柄「パラドゥーロ」(フェッラーラ周辺の湿地の水を抜くための編み垣)に似ていることから、ボルソのために描かれたとみられる。館によれば、本作は1586年にフェッラーラ公妃マルゲリータ・ゴンザーガの礼拝堂にあったと記録され、1598年に教皇の甥ピエトロ・アルドブランディーニがローマへ持ち去り、1603年の彼の収集の目録に記されている。紀要によれば、1800年か1801年にイギリスの画家で画商のアレグザンダー・デイが買い取るまでアルドブランディーニ家にあり、1808年から1924年まではイングランドのダウントン城に掛けられていた。その後、館の理事クラレンス・マッケイの収集に入ったが、大恐慌で財政に窮したマッケイが手放し、1932年に館が購入した。
意義
館長の序文は、本作に描かれた世界を、粗い顔立ちの羊飼いから眠り込むヨセフ、屋根のない馬小屋とひび割れた岩、金で照らされた天使たち、蛇行する川の岸で日々の仕事をする小さな人々まで挙げ、聖書の過去が画家の現在の中に置き直され、聖と俗の二つの世界が交わり豊かにし合っているとする。紀要は、本作が、マンテーニャが礼拝堂や宮殿の壁画と同じように小さな画面も自在にこなしたことを示す名人芸であり、のちの《サン・ゼーノ祭壇画》の裾絵へとつながる、聖なる出来事を身近な風景の中で体験させる試みだと位置づけている。