《聖母戴冠》
金色に輝く天上で、玉座のキリストが隣に座る聖母の冠に宝石を添えようとする。まわりでは天使たちが楽器を奏でて踊り、その下には聖人たちが半円を描くように並ぶ。
概要
《聖母戴冠》は、フィレンツェの画家フラ・アンジェリコが1431年から1435年に描いた祭壇画で、ウフィツィ美術館が所蔵する。館の題は《聖母の栄光(聖母の結婚と死を描いた裾絵付き)》。館の記録では、金地の板にテンペラで描かれ、縦112センチ、横114センチ。所蔵番号は1890年目録の1612番で、館のA8室(マザッチョ、フラ・アンジェリコ、パオロ・ウッチェロの部屋)に展示されている。
画面の読み解き
館の解説によれば、画面には、天に上げられた聖母マリアが、救い主キリストの隣の玉座に座り、喜びにあふれて踊り楽器を奏でる天使たちと、大勢の聖人たちに囲まれる姿が描かれている。聖母が女王として冠を受けるこの図像は、聖書には典拠がないが、中世まで広く好まれ、教会の勝利と結びつけられていた。ただし本作は、伝統的な戴冠図のなかでも珍しい形で、救い主は聖母の頭に冠を載せるのではなく、冠に宝石を一つ添えようとしている。これはおそらく、スウェーデンの神秘家ビルギッタ(1303〜1373年)が『啓示』で、キリストが聖母の冠をユリと宝石で飾るさまを思い描いた一節を絵にしたものだという。
技法・様式
館によれば、聖人の群れは40人を超え、一人ひとりが描き分けられているので、その多くを見分けることができる。右の手前には、長い髪を垂らしてひざまずくマグダラのマリアと、青い衣で油の灯火を持つ聖ルチアがいる。反対側の手前には、枢機卿の衣でひざまずく聖ヒエロニムス、黒と白の衣の聖ドミニクス、襟に金文字で名が記された司教聖エギディウスが並ぶ。館は、中世の伝統的な一様な金地が、光を屈折させる刻まれた光輪で動きを得ており、人物の半円の配置とわずかずつ小さくなる大きさが奥行きの感覚を生んでいると述べる。
来歴
館によれば、聖エギディウスが重んじられているのは、本作がフィレンツェのサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院の聖堂で、聖エギディウスに捧げられた祭壇のために描かれたからである。本作には、聖母の結婚と死を描いた2枚の裾絵が付いていたが、16世紀後半、おそらく聖堂の改修の際に切り離された。裾絵はメディチ家の収集に入り、1629年には目録に記録されている。一方、本体はサンタ・マリア・ヌオーヴァに残り、1825年にウフィツィに入った。第二次世界大戦中は、ナチス軍の爆撃や略奪から守るため、ポッピの城やポッジョ・ア・カイアーノのメディチ家の別荘などに隠された。戦後、本体はウフィツィに、裾絵はサン・マルコ美術館に分かれたが、2024年の春に再び一つになった。
意義
館は、フラ・アンジェリコを、マザッチョと並ぶ初期ルネサンスのフィレンツェ絵画の中心人物とし、画家としての技量と深い信仰心を結びつけ、複雑な神学の考えを天使のような幻視に置き換えることができたと述べる。同じ画家の作品には、サン・マルコ美術館の《キリストの十字架降下》や、《コルトーナの受胎告知》がある。