《マニフィカートの聖母》
円い画面の中で、青い衣の聖母が膝の幼子を抱き、天使の差し出す本にペンで文字を書く。頭上では二人の天使が金の冠をかざし、聖母のうしろの窓の向こうには、川の流れる穏やかな田園が広がる。
概要
《マニフィカートの聖母》(伊: Madonna del Magnificat)は、イタリアの画家サンドロ・ボッティチェッリが1483年頃に描いた円形のテンペラ画である。直径118センチの板に、聖母子と天使たちを描く。聖母が書き記す讃歌「マニフィカート」が題の由来となった。ウフィツィ美術館が所蔵する。
画面の読み解き
所蔵館の解説によれば、聖母は玉座に座り、二人の天使から冠を受けている。聖母は息子に導かれながら、讃歌「わが魂は主をあがめ(マグニフィカト・アニマ・メア・ドミヌム)」を書き記す。膝の上の幼子イエスが手を触れるザクロは多くの意味をもつ果実で、赤い粒は人類を救うためにイエスが流す血を思わせる。場面は明るく穏やかな田園を望む窓の前にあり、上の石の枠が天の国と地上を分ける。同館のオンライン展示によれば、天使は少なくとも5人いる。円の両脇の二人は聖母の頭に冠と薄いヴェールを載せようとし、手前の二人は聖母のそばで、一人が本を支え、もう一人がペンを浸すインク壺を差し出す。その後ろに立つもう一人が、二人を腕で抱く。
技法・様式
板にテンペラで描かれる。所蔵館によれば、聖母と天使の髪形は流行に沿った優雅なもので、宗教の主題を当世風に近づけている。ボッティチェッリのほかの作品と同じく、天使には翼がない。金で明るく仕上げた聖母の金髪は、豊かに飾られたマフォリオン(頭から肩を覆う布)の下で透けるヴェールに包まれる。天使たちの髪形や衣装は、15世紀末のフィレンツェの裕福な家の若者たちの流行にもとづいている。
来歴
所蔵館によれば、本来どこに置かれる絵だったかは分かっていない。1784年に個人の所蔵から購入された。ルネサンスの円形画は、ふつう世俗の場、とくに貴族の邸宅のためのもので、結婚や出産の折に注文されることが多かった。ただし本作はかなり大きいため、宗教画がしばしば飾られたフィレンツェ共和国の法廷のどこかに掛けられていた可能性もあるという。所蔵番号は1890年目録の1609番。
意義
所蔵館は、構想の独創性に、衣装や髪の洗練された優雅さ、そして書くことに没頭する聖母の表情の美しさが加わり、ボッティチェッリの発明が長く名声を得てきたとする。その人物像は美の理想を体現するものとして、とくに20世紀に高く評価された。