《ジョヴァンナ・トルナブオーニの肖像》
金糸の文様が輝く上衣をまとった若い女が、両手を前で組み、真横を向いて静かに立つ。背後の棚には、珊瑚の数珠、竜の飾りのある宝石、祈祷書と、ラテン語の詩句を記した小さな札が置かれている。
概要
《ジョヴァンナ・トルナブオーニの肖像》(英: Portrait of Giovanna degli Albizzi Tornabuoni)は、フィレンツェの画家ドメニコ・ギルランダイオが1489年から1490年頃に描いた肖像画である。縦77センチ、横49センチの板絵で、マドリードのティッセン=ボルネミッサ美術館が所蔵する。館は、15世紀フィレンツェの肖像画のみごとな例で、収蔵品で最も魅力的な肖像の一つとする。
画面の読み解き
ティッセン=ボルネミッサ美術館の解説によれば、腰から上の女性は厳格な真横の姿で、腕を曲げて両手を前で組む。背後には簡素な建築の枠の中に、彼女の洗練された趣味と人柄を示す持ち物が並ぶ。竜と二つの真珠、ルビーを組み合わせた宝石は、首の絹紐に下げた飾りと一揃いで、公の暮らしを示す。反対側の祈祷書と、ロザリオとされる珊瑚の数珠は、信心と内面の生活を表す。その間の小さな札には、ローマの詩人マルティアリスの警句の一部が記される。「芸術よ、性格と心を写し取れたなら、世にこれより美しい絵はないだろうに」。その下には年記がローマ数字で入る。
技法・様式
館によれば、テンペラ・グラッサと油彩を組み合わせた混合技法で描かれ、場所ごとに同じ材料を違う順に重ねている。赤外線写真では、ローマの記念メダルを思わせる最初の構図から、人物をわずかに右へずらしたことがわかった。首には丸い玉の首飾りが描かれていたが、黒い紐の飾りに改められ、手のハンカチも当初は大きかった。こうした描き直し(ペンティメント)のほか、上衣ははじめ腰を締めた襞の服だったが、夫の家が婚資として贈った袖なしの上衣「ジョルネア」に変えられた。肩の布には、夫ロレンツォの頭文字「L」が織り込まれている。顔と体の比例は理想化され、細い首と表情を抑えた整った横顔に、古代に倣う美の理論が表れている。
来歴
館によれば、ジョヴァンナ・デッリ・アルビッツィは1468年12月18日に生まれ、1486年6月15日にロレンツォ・トルナブオーニと結婚し、2年後の1488年10月7日、出産の際に亡くなった。ヤン・ラウツは本作をサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂の壁画より前の下絵と考え、ジョン・ポープ=ヘネシーは壁画より後の没後の肖像で、札の年記は没年とみた。本作はトルナブオーニ家の館にあり、17世紀にパンドルフィーニ家に移った。セイエール男爵らの収集を経て、1878年にはイギリスのブライトンにあり、ロドルフ・カーンの手に渡った。1907年にJ・P・モルガンが購入し、1935年、ニューヨークのモルガン図書館からティッセン=ボルネミッサ・コレクションに入った。所蔵番号は158(1935.6)。
意義
館によれば、人物の身元は、ワシントンのナショナル・ギャラリーにある、ニッコロ・フィオレンティーノに帰される彼女の名入りのメダルから確かめられた。ギルランダイオは、義父ジョヴァンニ・トルナブオーニの注文で1486年から1490年に描いたサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂の内陣の壁画《聖母のエリサベト訪問》にも彼女を描いており、全身像ながら姿勢や衣装、持ち物は本作と同じである。真横の姿勢、理想化された比例、組んだ手は、フィレンツェの15世紀の肖像の典型とされる。