《ゲツセマネの祈り》
祭壇のような岩の上で、キリストがひざまずいて祈る。その前の雲には、受難の道具を抱えた幼い天使たち。足もとでは3人の弟子が眠り込み、遠くエルサレムの門からは、ユダに導かれた兵士の列が曲がりくねった道を下ってくる。
概要
《ゲツセマネの祈り》は、アンドレア・マンテーニャが1455年から1456年頃に描いた板絵である。卵を使うテンペラで描かれ、縦62.9センチ、横80センチ。ロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵する。逮捕の前夜、キリストがゲツセマネの園で祈る場面を描く。所蔵館によれば、画家がまだヴェネツィアに近いパドヴァにいた初期の作で、ヴェローナの《サン・ゼーノ祭壇画》のプレデッラ(裾絵)に同じ図柄を描いたのとほぼ同じ時期とされる。
画面の読み解き
所蔵館によれば、キリストは十字架を立てた祭壇のような岩の前にひざまずき、雲に乗って受難の道具を掲げる幼い天使たちに向かって祈る。見張りを言いつけられたペテロ、ヤコブ、ヨハネは眠り込み、倒れたローマ皇帝の像のようにトーガ姿で横たわる。エルサレムの門からは、ユダが兵士の長い列を率いて下ってくる。曲がりくねる風景が行進の道筋を示し、緊張を高めるとともに時間の流れを感じさせる。2匹の兎、小川の2羽の白鷺(洗礼の象徴)、弟子たちの上の岩から伸びるイチジクの若木も描かれる。イチジクは、ユダがイチジクの木で首をつったという伝説に結びつくのかもしれない。右手の枯れ木には黒い鳥がとまっている。
技法・様式
所蔵館によれば、岩の形、天使たちの筋肉質の脚、石のようなキリストの巻き毛に、彫刻へのマンテーニャの関心が表れている。天使たちはフィレンツェの彫刻家ドナテッロを思わせ、町の中の金色の騎馬像は、古代ローマとルネサンスの騎馬像を思い起こさせる。速く乾く卵テンペラを用いて、煉瓦の一つひとつやイチジクの若木の樹皮まで細かく描き分けた。署名がある。
来歴
所蔵館によれば、構図は義父ヤコポ・ベッリーニの素描(大英博物館)に由来するとみられ、ヤコポの息子ジョヴァンニ・ベッリーニは、本作にもとづいて自らの《ゲツセマネの祈り》を描いた。その作品もナショナル・ギャラリーにある。本作はローマのアルドブランディーニ家のコレクションに1626年までにあり、のちフェッシュ枢機卿の所蔵となった。1845年に売られ、イギリスで持ち主を替えて、1853年までにトマス・ベアリングの手に渡った。ノースブルック卿に遺贈され、1894年に同館が購入した。所蔵番号NG1417。2026年10月時点では展示室63に展示され、15世紀ヴェネツィアの額に収められている。
意義
所蔵館によれば、本作には古代への憧れ、彫刻のように肉づけした人物、精密な細部という、マンテーニャの特徴がそろう。一つの画面の中で、風景そのものが物語を運んでいく。のちにジョヴァンニ・ベッリーニが本作にもとづいて同じ主題を描いたことも、パドヴァとヴェネツィアの画家たちの交わりを伝えている。