《誹謗》
彫像で飾られた大理石の柱廊で、玉座のロバの耳の王に向かって、着飾った女たちが半裸の若者の髪をつかんで引きずってくる。左端では黒衣の老女が振り返り、その先に裸の「真実」が天を指して立つ。
概要
《誹謗》(伊: Allegoria della calunnia)は、イタリアの画家サンドロ・ボッティチェッリが1495年頃に描いたテンペラ画である。縦62センチ、横91センチの板に、中傷とその犠牲を擬人像で表した寓意画で、フィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵する。「アペレスの誹謗」とも呼ばれる。館によれば、ボッティチェッリが描いた最後の寓意・神話の主題の作品である。
画面の読み解き
館の解説によれば、主題は古代ギリシアの画家アペレス(前4世紀)の失われた寓意画で、2世紀の文人ルキアノスの記述によって知られていた。画面は右から左へ読む。玉座の王はロバの耳をもち、これは誤った裁きを下したミダス王がアポロンに与えられた耳である。王に耳打ちする二人の女は「無知」と「疑惑」。半裸の犠牲者の髪をつかんで引きずる美しい女が、主題の「誹謗」で、松明を持つ。その傍らにはぼろをまとった痩せた男の「嫉妬」が付き、二人の娘「欺瞞」と「策略」が誹謗の髪を飾る。左では黒衣の「悔恨」が振り返り、誰にも顧みられない裸の若い女、「真実」を見つめる。舞台は海に面した柱廊で、彫像や浮き彫りが神話や聖書、中世文学の場面を表す。
技法・様式
板にテンペラで描かれる。館によれば、柱廊の彫像や浮き彫りには、ボッティチェッリの協力者バルトロメオ・ディ・ジョヴァンニが加わった可能性がある。館が2023年に紹介した研究書(モニカ・チェンタンニとサラ・アニョレット編)は、浮き彫りの典拠にオウィディウスの『変身物語』、ダンテの『神曲』、ボッカッチョの『デカメロン』を見いだした。研究書によれば、ルキアノスの記述に無い「裸の真実」は画家自身の発案で、片手で体を隠し、もう一方の腕を天に上げる姿は、同じ展示室の《ヴィーナスの誕生》の女神を小さく写したものだという。
来歴
館によれば、ジョルジョ・ヴァザーリは、16世紀半ばにはこの絵がファビオ・セーニの手にあり、父アントニオ・セーニ(1457〜1502年以降)から受け継いだものだと記している。現在は館のボッティチェッリの展示室(A12室)に展示されている。所蔵番号は1890年目録の1496番。
意義
館によれば、本作はロレンツォ・デ・メディチの時代が終わり、サヴォナローラに導かれた共和政が始まった頃の作である。ルキアノスによれば、アペレスは自ら中傷の犠牲となったのちにこの絵を考案したといい、館はボッティチェッリの板絵も同じような事情で描かれた可能性を否定しない。2023年の研究書は、本作をサヴォナローラの死後の重苦しい空気のなかで、為政者に向けて当時の悪徳と美徳の「戦い」を示したものと読み、その相手をロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチとみている。