《パラスとケンタウロス》
崩れかけた岩の前で、大きな斧槍を持つ女性がケンタウロスの髪をつかむ。ケンタウロスは弓を手に顔をしかめて女性を見上げ、女性は物憂げに首をかしげる。白い衣にはダイヤモンドの指輪の模様が散る。
概要
《パラスとケンタウロス》(伊: Pallade e il centauro)は、サンドロ・ボッティチェッリが1480年から1485年ごろに描いた絵である。キャンバスにテンペラで描かれ、縦207センチ、横148センチ。ウフィツィ美術館が所蔵し、同館の《春》と同じボッティチェッリの展示室に掛かる。所蔵館によれば、ボッティチェッリのほかの神話の絵と同じく、解釈には多くの疑問が残る神話画で、獣のような情念を抑える徳の寓意と読まれている。
画面の読み解き
画面の左手には、崩れかけた石造りの建物のような岩がそびえ、その前にケンタウロスが立つ。上半身は人、下半身は馬の姿で、片手に大きな弓を持ち、背には矢筒を負う。右から歩み寄る若い女性が、ケンタウロスの髪を左手でつかみ、右手には飾りの多い大きな斧槍を立てている。ケンタウロスは顔をしかめて女性を見上げ、女性はわずかに首をかしげて物憂げな表情を見せる。女性の白い衣には、ダイヤモンドの指輪を組み合わせた模様がくり返し描かれ、肩には緑のマントがかかる。頭と腕と胸には、オリーブのような葉の枝が絡みつく。背後には湖か入り江が広がり、小さな帆船が浮かぶ。右奥には木の柵が見える。
技法・様式
所蔵館によれば、女性は、斧を持ちケンタウロスを抑える姿から、知恵の女神ミネルヴァ(ギリシアのパラス・アテナ)か、祖国を守って戦死した処女の戦士カミラとみられてきた。描かれてまもない時期の財産目録や文献での呼び名が、その手がかりである。日本語版ウィキペディアによれば、1499年の目録では「カミラ」、1516年の目録では「ミネルヴァ」と呼ばれている。人と獣が一つになったケンタウロスは人間の獣の本能を表し、作品全体が、血気と情念を抑える徳の寓意と解される。女性に絡む枝は、ミネルヴァに捧げられたオリーブか、カミラにゆかりのある銀梅花かもしれないという。等身大の二人の人物を、明るい背景の前に流れるような輪郭線で描き出している。
来歴
所蔵館によれば、衣の指輪の模様は、メディチ家の何人かが用いた紋章にあたる。絵は、メディチ家のロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ(ロレンツォ・イル・マニフィコのいとこ)のものであり、1482年の彼とセミラミーデ・アッピアーニの結婚の際に注文された可能性がある。所蔵番号は1911年のピッティ宮殿の美術品目録752番。
意義
本作は、《春》《ヴィーナスの誕生》と並んで、メディチ家の周辺のために描かれたボッティチェッリの大きな神話の絵の一つである。所蔵館は今も、同じ展示室で《春》とともに見せている。