《聖エミディウスのいる受胎告知》
ルネサンスの町の通りに、百合を持つ大天使ガブリエルがひざまずき、その横で町の模型を抱えた司教が話しかける。壁の向こうの豪華な部屋では、天から差し込む金色の光の筋が、祈る聖母マリアに届こうとしている。
概要
《聖エミディウスのいる受胎告知》(英: The Annunciation, with Saint Emidius)は、ヴェネツィア出身の画家カルロ・クリヴェッリが1486年に描いた祭壇画である。縦207センチ、横146.7センチで、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。マルケ地方の町アスコリ・ピチェーノの修道院のために描かれた。所蔵館はこれを画家の最もよく知られた作品とし、装飾と遠近法の傑作と呼ぶ。
画面の読み解き
所蔵館によれば、大天使ガブリエルは、聖母に救い主を宿すことを告げる受胎告知に向かう途中で、町の通りで一人の司教に呼び止められている。アスコリの守護聖人エミディウスで、膝には今も見分けられる塔の並ぶ町の模型を載せる。壁の向こうの豪華な館では、聖母が祈祷台にひざまずき、天から放たれた光の筋が、聖霊の鳩を乗せて壁の金色の穴を抜け、聖母に届こうとしている。町の人々は気づかず、階段の陰からのぞく子どもと、空を見上げる若者だけがその閃光に目を留める。光の風に鳩が舞い立ち、壁に掛けた東方の絨毯がはためく。橋の上では、伝書鳩が運んだ知らせを男が読んでいる。受胎告知を機知に富んでなぞった場面である。聖母の部屋には本や蠟燭、ガラスの花瓶が並び、籠の中のゴシキヒワと高みに止まるクジャクはキリストの受難と復活を表す。
技法・様式
所蔵館によれば、キャンバスに卵テンペラで描かれ、油彩も一部に用いられる。画家の祭壇画の多くは金地の多翼祭壇画だったが、本作は一枚の画面からなり、線遠近法の腕前と細部を描き込む才を存分に示す。消失点は珍しく中央ではなく左に置かれ、聖母の家の内部と、その脇の細い通りの眺めが並ぶ。クジャクや絨毯、エミディウス自身までが影を落とし、見る者は本物の空間をのぞいているように感じる。下の大理石の棚に載る果物は画家の得意の小道具で、棚と画面の表面の両方に影を落とす。聖母の家の入口の柱には署名と年記がある。
来歴
所蔵館によれば、アスコリは教皇の支配下にあったが、1482年に自治を認められ、その知らせが受胎告知の祝日である3月25日に届いた。以後、この日は町から修道院への大行列で祝われ、本作はこの厳修派フランシスコ会の修道院のために描かれた。下の縁には教皇、町、司教の紋章と、自治を認めた教皇勅書の題「LIBERTAS ECCLESIASTICA」が記される。1811年にミラノのブレラ美術館へ移され、1820年に交換で手放された。のちにトーントン卿の所有となり、1864年に卿が所蔵館に寄贈した。所蔵番号はNG739。
意義
所蔵館によれば、本作は土地の聖人が聖書の出来事に割って入るさまを描いた点で類がない。政治と財政の自治を記念すると同時に、神の助けを願う絵でもあった。1484年からアスコリはひどいペストに見舞われて行列も取りやめとなり、宿敵フェルモとの戦争にも突入していた。エミディウスの町の模型は、マルケの町々がロレートの聖母の聖地に捧げた小さな町の模型を思わせる。