《サビニの女たち》
城壁の下の戦場で、白い衣の女が両腕を大きく広げ、盾を構えた二人の戦士の間に立ちはだかる。足元では幼子たちが転がり、女たちは赤子を高く掲げ、あるいはひざまずいて戦いを止めようと訴える。
概要
《サビニの女たち》(仏: Les Sabines)は、ジャック=ルイ・ダヴィッドが1799年に完成させた油彩画である。縦385センチ、横522センチのキャンバスで、パリのルーヴル美術館が所蔵する。英語では《サビニの女たちの仲裁》とも呼ばれる。ローマの伝説で、ローマ人に連れ去られたサビニの女たちが、父や兄弟のサビニ人と夫のローマ人との戦いの間に割って入り、争いを止めた場面を描く。所蔵館によれば、ダヴィッドはこの主題に、革命の後のフランス人どうしの和解への呼びかけを込めた。新古典主義を代表する歴史画の大作である。
画面の読み解き
画面の中央で、白い衣のヘルシリアが両腕を広げ、左のサビニ王タティウスと右のローマの王ロムルスの間に立ちはだかる。タティウスは赤いマントをはおって丸い盾を掲げ、剣を手に構える。ロムルスは、双子に乳を与える雌狼と「ROMA」の文字を刻んだ金の盾を持ち、槍を投げようとしている。二人の戦士や右端で馬を引く若者は、裸身で描かれている。足元では幼子たちが転がり、左の女は赤子を頭上に高く掲げ、ほかの女たちもひざまずき、あるいは頭を抱えて戦いを止めようと訴える。背後には城壁と塔がそびえ、無数の槍が林立し、騎兵たちが馬を止めている。
技法・様式
所蔵館によれば、ニコラ・プッサンがサビニの女たちの略奪を描いたのとは違い、ダヴィッドはローマ人とサビニ人が女たちの仲裁で戦いをやめる瞬間を選んだ。かつての《ホラティウス兄弟の誓い》では女たちは受け身だったが、本作では画面の中心に置かれ、反発、恐れ、嘆願、勇気を表す。所蔵館は、女たちが血なまぐさい事態の流れを止め、ローマの輝かしい未来を確かなものにする歴史の担い手として描かれているとする。戦士たちの裸身は、古代の彫刻にならって英雄を理想化して描く英雄的裸体の伝統に連なる。ダヴィッドはまた、自らが劇場で広めた古代風の装いにも大きな意味を持たせた。
来歴
所蔵館によれば、ダヴィッドは1794年末か1795年の夏に最初の下絵を描いた。ロベスピエールの失脚後に投獄され、自らの過去と革命への関与を省みていた時期である。1799年に完成した本作は、翌1800年にルーヴルで入場料をとる個展として公開された。所蔵館によれば、絵は大きな鏡の前に掛けられ、見る者が絵の中に入り込むように見せた。所蔵館はこれを美術史で最初の「没入型インスタレーション」とも呼べるとし、この手法はのちの《ナポレオンの戴冠式》でも繰り返された。1801年には《アルプス越えのナポレオン》が隣に掛けられた。1798年からは本作の対作品として《テルモピュライのレオニダス》が構想され、1819年、両作はあわせて国王ルイ18世の政府に買い上げられた。所蔵番号INV 3691。
意義
所蔵館は、1780年代の歴史画に立ち返りながら、政治の経験と挫折を経たダヴィッドの見方がそこに加わったとみる。混乱と暴力の年月の後では、英雄的な行いも人間らしさを欠いてはありえない、というのが本作のメッセージだという。本作は2025年10月から2026年1月まで所蔵館で開かれたダヴィッド展でも、和解への呼びかけとして紹介された。