《ホラティウス兄弟の誓い》
ジャック=ルイ・ダヴィッドが国王ルイ16世の注文で描いた歴史画。古代ローマの伝説に取材し、祖国のために戦うことを父の前で誓う三兄弟と、嘆き崩れる女たちを対比させた。新古典主義の絵画の手本とされる。
概要
《ホラティウス兄弟の誓い》(仏: Le Serment des Horaces)は、ジャック=ルイ・ダヴィッドが国王ルイ16世の注文で描いた油彩画である。画面の署名には1784年とある。古代ローマの伝説に取材し、祖国のために命を懸けて戦うことを父の前で誓う三兄弟を、縦3.3メートル、横4.25メートルの大画面に描いた。1785年のサロンで大評判となり、新古典主義を代表する作品としてルーヴル美術館が所蔵する。
来歴
1781年末から翌年初めにかけて、王の建造物総監ダンジヴィレ伯を通じて国王から注文を受けた。当初の主題は、戦いに勝ったホラティウスを描く「勝利者ホラティウス」で、画面も縦横3.3メートルと定められていた。ダヴィッドは完成を延ばし、1784年7月、かつてローマ賞の留学で学んだローマで制作する許しを得て秋に移り住むと、主題と画面の大きさを改めた。ルーヴル美術館の記録では、1785年の前半にローマで描き、同年7月に完成している。8月にローマのアトリエで公開すると評判を呼び、パリに運ばれて同年のサロンの会期後半に展示された。画家はその後、弟子の手も借りて縮小版を描いている(トレド美術館)。本作は1791年のサロンにも出品され、1804年からリュクサンブール宮に置かれ、画家の没後の1826年にルーヴルに移された。
画面の読み解き
物語は、歴史家リウィウスが伝える紀元前7世紀の伝説による。ローマとアルバ・ロンガは、争いを三人ずつの戦士の決闘で決めることにし、ローマからはホラティウス家の三兄弟、アルバからはクリアティウス家の三兄弟が選ばれた。両家は婚姻で結ばれていた。画面の左では、兜をかぶった三兄弟が互いの体を抱えて一つになり、右腕をまっすぐに伸ばして誓う。中央の父は三振りの剣を高く掲げる。右には嘆き崩れる女たちがいる。白い服の妹カミラはクリアティウス家の一人の婚約者、隣の褐色の衣の女性はクリアティウス家から嫁いだ兄の妻サビナで、奥では黒い衣の女性が二人の子どもを抱き寄せる。決闘で生き残るのは兄弟の一人だけで、帰還した彼は、婚約者の死を嘆く妹を手にかけることになる。父の前での誓いの場面は古代の文献には無く、ダヴィッドの創案である。
技法・様式
背景の三つのアーチが画面を三つに分け、兄弟、父、女たちがそれぞれのアーチの前に置かれる。兄弟の脚や腕は直線で組み立てられ、背後の柱のように硬く力強い。女たちは曲線で描かれ、アーチのように柔らかく崩れる。床の目地と壁の線を延ばすと、消失点は父が剣を握る手に重なり、見る者の目は誓いの一点に導かれる。背景は簡素な石造りの広間だけで、人物は浅い舞台の上に、古代の浮彫りのように横向きに並ぶ。明確な輪郭、筆の跡を残さない滑らかな仕上げ、抑えた色調は、軽やかで装飾的なロココの絵画とはっきり異なる。
意義
私情よりも公の義務を選ぶ英雄を、簡潔で厳しい構成で描いた本作は、サロンで熱狂的に迎えられ、ダヴィッドに競争相手をしのぐ名声をもたらした。古代の徳を手本とする新古典主義の絵画の模範とされ、多くの弟子が彼のもとに集まった。王の注文による作品だったが、祖国への献身を誓う姿は、4年後に始まるフランス革命の時代に、共和国の理想を表す図像として受け取られていく。ダヴィッド自身も革命に深く関わり、1789年には同じくローマの物語による《ブルートゥスのもとに息子たちの遺骸を運ぶ警士たち》(ルーヴル美術館)を描いた。