《泉》
- 作者
- ギュスターヴ・クールベ
- 制作年
- 1862年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 120 × 74.3 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館
- 時代
- 写実・印象派
- 流派
- 写実主義
薄暗い森の奥で、長い髪の裸の女が膝下まで流れに浸かり、こちらに背を向けて立つ。岩をつたう小さな滝に身を寄せ、張り出した枝に腕を掛けて、木々の茂る奥をのぞき込んでいる。
概要
《泉》は、フランスの画家ギュスターヴ・クールベが1862年に描いた油彩の裸婦像で、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する。館の記録では、キャンバスに油彩で、縦120センチ、横74.3センチ。所蔵番号は29.100.58で、右下に「G. Courbet」の署名がある。館の2階、811室に展示されている。館の解説によれば、クールベは古典の彫像を手本にした理想化された女性像という約束ごとを退け、アカデミックな寓意画の小道具や高尚な口実を捨てて、流れ落ちる水を抱きとめるように身を寄せる女性を描いた。
画面の読み解き
縦長の画面は、深い緑の木々に覆われた森の奥である。中央に、長い黒髪を背に垂らした裸の女が、こちらに背を向けて立つ。足は膝の下まで浅い流れに浸かり、周りには水しぶきが白く立つ。女は苔むした岩をつたって落ちる細い滝に体を寄せ、張り出した枝に両腕を掛けて、上方の明るい木々の奥をのぞき込む。右手には大きな岩の壁がそびえ、足もとの水面には茶色の石が点々と顔を出す。ハヴマイヤー夫人は回想録で、こちらに背を向けて暗い緑の森を見入る女の背に陽光がきらめくさまを、「真珠のように灰色がかった」裸身と、あざやかに輝く中間の色調としてたたえている。
技法・様式
人物の白い肌は、暗い森の緑と岩の褐色を背にして浮かび上がる。背景の水や岩には絵具を厚く置いた跡が残り、なめらかに肉づけされた体とは手ざわりが異なる。館の1966年の目録によれば、この人物と背景の描き方の違いから、弟子の協力を想定する説も出されたが、技術調査ではそれを裏づける証拠は見つからなかった。館の解説によれば、クールベはのちに、保守的なサロンの審査員にも受け入れられる裸婦を描くと誓い、1866年に《女とオウム》を出品した。この作品も館が所蔵している。
来歴
館の1993年の展覧会図録によれば、本作はパリの画廊ベルネーム=ジューヌを経てボルドーの個人の所蔵となり、1916年に画商デュラン=リュエルが買い取った。同年3月11日、ニューヨークの収集家ルイジーヌ・ハヴマイヤー(ハヴマイヤー夫人)が5万フランで購入している。1919年に館で開かれたクールベ展には、持ち主の名を伏せて貸し出された。1929年、夫人の遺贈によって、夫H.O.ハヴマイヤーの名を冠したコレクションの一点として館に入った。
意義
館の目録によれば、ドミニク・アングルの《泉》が1861年にパリのマルティネ画廊で展示されており、翌年に描かれた本作は、壺から水を注ぐ理想化された裸婦への写実の側からの応答だった可能性がある。クールベは1868年にも、同じ題で流れに座る裸婦の背中を描いており、その作品は現在オルセー美術館にある。館の図録は、夫人がその名高い作を手に入れられず、それを思わせる本作を選んだと述べ、作品の出来には厳しい評価を下しながらも、本作が夫人のお気に入りの一点だったと伝えている。夫人は、クールベの裸婦は写実的で率直だが、決して下品ではないと書いた。