《ブルートゥス邸に息子たちの遺骸を運ぶ警士たち》
薄暗い邸の左の陰で、ローマの執政官ブルートゥスが像の足もとに座って物思いに沈み、背後では警士たちが息子の遺骸を担いで運び込む。右の明るい部屋では、妻が腕を伸ばして叫び、娘たちが抱き合って嘆く。
概要
《ブルートゥス邸に息子たちの遺骸を運ぶ警士たち》は、フランスの画家ジャック=ルイ・ダヴィッドが1789年に描いた油彩の歴史画で、パリのルーヴル美術館が所蔵する。館の記録では、キャンバスに油彩で、縦3.23メートル、横4.22メートル。所蔵番号はINV 3693で、ドノン翼の702室(ダリュの間)に展示されている。館の題は《息子二人を断罪したのち邸に戻った初代執政官ブルートゥス》。左下に「L.David. f.bat parisiis anno 1789」の署名と年記があり、画布の裏には「この絵は革命のとき、1789年に描かれた」と黒で書かれている。
画面の読み解き
メトロポリタン美術館が所蔵する本作の準備素描(1787年)の解説によれば、描かれているのは、ローマ最後の王タルクィニウスの暴政を終わらせて最初のローマ共和政を打ち立てたルキウス・ユニウス・ブルートゥスである。ブルートゥスはのちに、自分の二人の息子が王政の復活をはかる陰謀に加わったことを知り、政治の信条に忠実に息子たちを死刑に処した。ダヴィッドの新しさは、処刑そのものではなく、その後の家族の痛ましい場面を描いたところにある。画面の左では、ブルートゥスが暗がりの中、女神ローマの像の台座(銘は DEA ROMA)の足もとに座って思いに沈み、その後ろでは警士たちが担架にのせた息子の遺骸を運び込む。右の光に照らされた部屋では、妻が腕を伸ばして叫び、二人の娘が抱き合って身をよじり、右端では女性が顔を覆って泣いている。
技法・様式
メトロポリタン美術館の解説によれば、本作は、整然とした建築、浮き彫りのように一つの平面に並べた人物、輪郭のはっきりした形、控えめでほとんど単色に近い色づかいに、ダヴィッドの成熟した新古典主義の様式をよく示している。家具や小道具、思いに沈むブルートゥスから嘆き悲しむ妻や娘たちに至る人物の姿勢は、画家がローマ留学中に写した古代の作品から取られている。
来歴
館の来歴によれば、本作は国王の注文で、ダヴィッドは1786年5月、1787年のサロンのために、6000リーヴルで「母と妻と子らに止められるコリオラヌス」を描くよう依頼された。ダヴィッドは1787年中に主題を「ブルートゥス」に変え、作品は1789年8月25日に開いたサロンに出品された。1791年のサロンにも出したのち、画家は複製を作るためにいったん引き取り、《ホラティウス兄弟の誓い》とともにルーヴル宮のアトリエに置いた。その後、両作はたびたび返還を求められ、1804年からリュクサンブール宮の画廊に掛けられ、1818年開館のリュクサンブール美術館を経て、1826年にルーヴル宮に移された。
意義
メトロポリタン美術館の解説によれば、ダヴィッドは本作を革命前夜に描き、バスティーユ陥落の直後に公開した。ローマの主題は、当時フランスで起きていた出来事と強く響き合った。館の来歴が示すように、本作はその後も《ホラティウス兄弟の誓い》と対のように扱われ、ともに返還を求められ、同じ場所に掛けられてきた。