《聖マルコの遺骸の運搬》
黒い雲が渦巻き、稲妻が走る空の下、信徒たちが裸の遺骸を担いで手前へ運ぶ。傍らには駱駝が立ち、奥へ延びる広場の石畳には雨が光り、柱廊へ逃げ込む人々の姿が白く透けている。
概要
《聖マルコの遺骸の運搬》は、ヴェネツィアの画家ティントレットが1562年から1566年に描いた油彩画で、ヴェネツィアのアカデミア美術館が所蔵する。館の記録では縦397センチ、横315センチのキャンバスで、目録番号は831。館の第11室に展示されている。館の題は「聖マルコの遺骸の救出」である。
画面の読み解き
館の解説によれば、この絵はしばしば「聖マルコの遺骸の持ち去り」と説明されてきたが、実際に描かれているのは、福音書記者マルコの遺骸が火に投じられる前に、奇跡の雹の嵐が異教徒の迫害者たちを逃げ去らせ、信徒たちが遺骸を救い出す場面である。空には不吉な雲が厚く垂れこめ、素早い筆で稲妻と雹が描かれている。中央の群れの構図は、ふつう「キリストの降架」で用いられる形を思わせる。斜めに長く横たわる聖人の体は降ろされたキリストの体を思わせ、聖書でアリマタヤのヨセフが担う肩を支える役は、ここでは当時の服を着た人物が務めている。その顔は、注文のときにサン・マルコ大同信会の長(グアルディアン・グランデ)だったトンマーゾ・ランゴーネの面影を持つ。
技法・様式
館によれば、斜めの線に沿って並ぶ建物と、遠近法で奥へ逃げていく床の石の区画が、奥行きの広がりに強い加速を与えている。突然の嵐に驚いた異教徒が柱廊へ逃げ込んで人の消えた広場は、光に縁取られたアスファルト色の雲の下で、ほとんど果てしない広さを帯びる。透き通るような建物、光の筋で素早く描かれた小さな人影、石畳の上に金色に震える雨の跡が、場面に夢のような性格を与えている。
来歴
館によれば、本作はヴェネツィアの同信会の一つ、サン・マルコ大同信会の注文で、ランゴーネが長を務めていた1562年から1566年に描かれた。1807年に同信会が廃止されるまで集会室にあり、その後サンソヴィーノ図書館(マルチャーナ図書館の大広間)に移された。このとき新しい場所に合わせて画面の左側が切り詰められ、逃げる人の外套をつかもうとする横たわった男の姿の一部が失われた。また重い塗り直しによって、奥の薪の山が建物に付け足された連続アーチに置き換えられ、主題の誤解を招く一因となった。1920年にマルチャーナ図書館の大広間から館に入った。
意義
本作は、ティントレットがサン・マルコ大同信会のために描いた聖マルコの物語の大画面である。同じ連作の《聖マルコの遺骸の発見》は、ミラノのブレラ美術館にある。同じ館には、同信会のために1548年に描かれ、画家の名声を確立した《奴隷を救う聖マルコ》も所蔵されている。