《奴隷を救う聖マルコ》
床に裸で横たわる男のそばで、刑吏が槌を振り上げ、まわりには折れた刑具が散らばる。頭上からは赤い衣の聖マルコが逆さまに舞い降りる。右の高い座では、主人の男が身を乗り出して見下ろしている。
概要
《奴隷を救う聖マルコ》(伊: San Marco libera uno schiavo)は、ティントレットが1547年から1548年にかけて描いた油彩画である。キャンバスに描かれ、縦416センチ、横544センチの大作で、ヴェネツィアのアカデミア美術館が所蔵し、第11室に展示されている。もとはヴェネツィアの同信会、サン・マルコ大同信会の集会室のために描かれた。所蔵館によれば、本作はティントレットがヴェネツィアで世に認められた作品であり、若いころのさまざまな経験が実を結んで、挑発的なまでに新しい絵画の言葉が生まれた瞬間を示す。
画面の読み解き
所蔵館によれば、描かれているのは、死後の聖マルコが起こしたとされる奇跡の一つである。プロヴァンスの領主に仕える奴隷が、主人の言いつけにそむいてヴェネツィアへ巡礼し、聖マルコの遺骸を拝んだために拷問にかけられた。画面の下では、裸の奴隷が床に仰向けに横たわり、まわりに折れた木片や刑具が散らばる。槌を振り上げた刑吏は、その手を止めて驚いている。頭上からは、赤い衣の聖マルコが光輪を輝かせて逆さまに舞い降りる。右手の高い座では、領主が身を乗り出して見下ろし、左手の群衆は驚いて身をよじる。聖人の出現で拷問の道具が砕け、領主も刑吏も群衆も呆然とする瞬間である。
技法・様式
所蔵館は、記念碑的な舞台装置と群衆の巧みな演出に見られる劇場のような性格に、ヴェネツィアの演劇の世界に親しんだ画家の素養が表れていると述べる。本作は、同信会が注文する物語の大画面(テレーロ)の伝統に新しい時代を開いた。日本語版ウィキペディアによれば、人体の表現にはミケランジェロに学んだ力強さがあり、鮮やかで強い色彩はヴェネツィア派に典型的なものである。背景には、ぶどう棚の下に古典風の建物と庭が広がっている。
来歴
所蔵館によれば、絵は1548年4月までに完成していた。このとき、名高い文筆家ピエトロ・アレティーノが画家に賛辞の手紙を送っている。1797年にフランス軍に押収されてパリのナポレオン美術館に運ばれ、1815年にヴェネツィアへ戻った。ナポレオンによって信心会が廃止されていたため、絵は同信会には戻らず、1816年からアカデミア美術館に収められている。所蔵目録の番号は42。
意義
所蔵館が述べるとおり、本作はティントレットがヴェネツィアで画家として広く認められるきっかけとなった作品である。所蔵館は、同じ画家の《難破からサラセン人を救う聖マルコ》など、同館にある聖マルコの奇跡の絵も関連作として紹介している。