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《ステュクス川を渡るカロンのいる風景》

El paso de la laguna Estigia
《ステュクス川を渡るカロンのいる風景》ヨアヒム・パティニール
Wikimedia Commons / プラド美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
ヨアヒム・パティニール
制作年
1520–1524年
素材
板 / 油絵具
寸法
64 × 103 cm
所蔵
プラド美術館 (P001616)
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画面の中央を、鏡のように暗く光る広い川が縦に流れる。渡し守カロンの舟には一人の魂が乗る。左の岸には天使たちのいる明るい天国、右の岸には三つの頭の犬ケルベロスが守る冥府の入り口が広がる。

概要

《ステュクス川を渡るカロンのいる風景》は、南ネーデルラントの画家ヨアヒム・パティニールが1520年から1524年ごろに描いた油彩の板絵で、プラド美術館が所蔵する。縦64センチ、横103センチ。ギリシア神話で死者の魂を舟に乗せて冥府の川ステュクスを渡す渡し守カロンを、天国と地獄のあいだに置いた作品である。所蔵館によれば、パティニールの作品の中でも異例の画面で、注文主ももとの置き場所もわかっていない。祭壇画ではなく、人文主義者の周辺にふさわしい、手もとに置いて眺めるための絵とみられている。

画面の読み解き

所蔵館によれば、画面は縦に三つに分けられる。左右の岸と、そのあいだを流れる、暗く鏡のように光る広い川で、その中央をカロンが舟を操って進む。パティニールは聖書と古典の典拠を組み合わせた。左の岸にいる天使たちは、そこがギリシア神話のエリュシオンの野ではなく、キリスト教の天国であることを示す。右の岸のケルベロスは、そこが冥府ハデスであることを示し、カロンとその舟とともに場面をギリシア神話に結びつける。舟はステュクスの二つの流れのちょうど中ほどに達しており、真横を向いた魂は、滅びへと続くたやすい道の方を見ている。その選択はすでに決まっているのである。

技法・様式

所蔵館によれば、直接の手本はなく、パティニールは先行する天国と地獄の図像、とりわけヒエロニムス・ボスの作品に学んだ。X線写真と赤外線反射写真からは、当初の構想が描き変えられたことがわかる。天国は下描きよりもボスらしい姿になり、幻想的な建造物は《快楽の園》を思わせる。煉獄も描き直され、大きな悪魔が消されて、手前は真の天国を岩礁でさえぎる偽りの楽園になり、画面の釣り合いが整えられた。悪魔や地獄に落ちた者、天使、選ばれた者、動物たちは小さく描かれ、ボスの影響は抑えられて、風景が画面の主役となった。描線と絵具の扱いは画家自身の手になるとされる。

来歴

所蔵館によれば、スペイン王室の収集品で、おそらくフェリペ2世が所有した。1636年にはマドリードの王宮アルカサルにあり、1734年の王宮の火災を免れ、1789年にはブエン・レティーロ宮殿にあったことが記録されている。現在はプラド美術館の第55A室に展示されている。

意義

所蔵館によれば、場面は、自らの運命を選ぶことをめぐる中世末期のたとえ、主にマタイによる福音書の言葉にもとづく。宗教改革を含む当時の悲観的な空気の中で読むと、本作は見る者に、キリストに倣う険しい道を選ぶよう促すメメント・モリとして働く。制作は画家が1524年ごろに没する前の晩年の時期にあたるが、描線と画面の仕上がりからは中期の終わり、1520年ごろとみられ、プラド美術館の《聖アントニウスの誘惑のある風景》や、エル・エスコリアル修道院の《聖クリストフォロスのいる風景》より前に描かれたと考えられている。