《夏・習作》
- 作者
- ピエール=オーギュスト・ルノワール
- 制作年
- 1868年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 85 × 59 cm
- 所蔵
- ベルリン旧国立美術館
- 時代
- 写実・印象派
木漏れ日の庭で、黒髪を垂らした若い女が椅子に座り、手を膝の上で組んでいる。白い下着は肩からずり落ち、髪には赤いリボンが結ばれる。背後の緑は、粗く速い筆で置かれている。
概要
《夏・習作》(仏: En été)は、ピエール=オーギュスト・ルノワールが1868年に描いた油彩画である。縦85センチ、横59センチ。ベルリン旧国立美術館が所蔵する。モデルは当時の恋人リーズ・トレオで、翌1869年のサロンに入選した。「ボヘミアンの女」の名でも呼ばれる。印象派の技法が固まる前夜の一点である。
画面の読み解き
女は画面の左寄り、曲げ木の庭椅子に浅く腰かけ、両手を膝の上で組む。手の中には緑の小枝がのぞく。長い黒髪は肩から胸へ波打って垂れ、頭には細い赤いリボンが結ばれる。白い下着の襟は大きく開いて両肩からずり落ち、その下に赤と白の縦縞のスカートが広がる。耳には小さな金の耳飾りが光る。視線はこちらに向けられているが、表情には気だるさが漂う。背景は茂った木々の緑で、明るい光の斑点が散り、右手には低い塀がのぞく。
技法・様式
人物は輪郭をしっかり取り、肌や布の量感を確かめるように塗り重ねられている。同時代のギュスターヴ・クールベに学んだ写実の手法で、所蔵館もクールベの影響を指摘する。一方で背景の葉は、絵具を厚めに素早く置いた筆触の集まりとして描かれ、光が葉を透かす様子が色の斑で示される。室内の光で描いた人物と、戸外を思わせる背景とを一枚に組み合わせた構成に、写実から印象派へ移る途中の姿がうかがえる。
来歴
1869年のサロンに入選し、1873年には批評家テオドール・デュレが、娘の魅力と描写の質を買って早くに手に入れた。その後フランソワ・ドゥポーやジョルジュ・プティらの収集を経て、1906年、ナショナル・ギャラリー館長フーゴ・フォン・チューディが画商パウル・カッシーラーを通じて購入した。所蔵番号A I 1014。
意義
ルノワールは1867年からリーズを繰り返し描き、役柄を与えた人物像のかたちで、自由な芸術家の暮らしを理想化して見せた。本作はその一つで、前年の《日傘のリーズ》に続いてサロンに認められ、若い画家の足場を固めた。のちの明るい印象派の画面とは異なり、クールベ風の確かな人体と、軽い筆の背景とが同居している点に、この時期ならではの面白さがある。ベルリンでの購入は、フランスの近代絵画を積極的に買い入れたチューディの収集を物語る一点でもある。