《希望I》
赤い髪に小さな花を飾った身重の裸の女性が、横向きに立ち、胸の下で手を組んでこちらを見る。背後には髑髏や青白い顔が並び、左には黒い大きな怪物がうずくまる。足もとには青い衣のような模様が流れる。
概要
《希望I》は、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが1903年に描いた油彩画で、オタワのカナダ国立美術館が所蔵する。縦189.2センチ、横67センチの細長いキャンバスに、身ごもった裸の女性を描いた寓意画である。クリムト自身は《希望(Die Hoffnung)》と呼んだが、のちに同じ主題で描いた作品と区別するため《希望I》と呼ばれる。館は1970年に購入した。
画面の読み解き
所蔵館によれば、クリムトはここで、新しい命の約束と死の破壊的な力を並べた。周りの化け物たちにもかかわらず、女性は動じず、自らの内に宿る再生を確信している。館の紀要に載ったヨハネス・ドバイの論文(1971年)によれば、画家の友人の批評家ルートヴィヒ・ヘヴェシは、身重の若い女性が「生のおぞましく好色な魔物たち」のしかめ面のあいだを平然と歩み、胎内の「希望」によって傷つかずにいる、と書き、デューラーの版画《騎士と死と悪魔》になぞらえた。
技法・様式
ドバイは本作を、写実的な女性の姿、表現主義的な背景の顔、金色の円い装飾を組み合わせた「モンタージュのような構図」と呼ぶ。女性は多くの写生にもとづいて写実的に描かれ、懐疑的な表情には肖像のような趣がある。左上のゆがんだ顔は、のちのエゴン・シーレを予告すると述べる。身ごもった女性の図像は、1901年に発表された大学天井画《医学》(1945年に焼失)の画面右上にすでに現れていた。
来歴
ドバイによれば、本作は1903年夏に描かれ、同年11月の分離派展でのクリムトの回顧展に出る予定だったが、文部大臣フォン・ハルテルの助言で取り下げられた。所蔵館も、この大胆な図像が当時の礼節に反したため回顧展から外されたと記す。作品はウィーン工房の共同創設者フリッツ・ヴェルンドルファーが買い、1905年にはその邸宅で二重の扉の奥に掛けられていた。同年ベルリンのドイツ芸術家連盟展、1909年のウィーンのクンストシャウに出品された。
意義
所蔵館によれば、準備素描には風景の中で幸福を思う男女が描かれており、構想の変更は1902年に画家の幼い息子が亡くなったことへの反応だったかもしれない。ドバイは本作を、《ユディトI》と対をなすものとして読む見方も紹介している。また、本作は《医学》と同じく死を外からの脅威ではなく生の一部として描いているとし、のちの《死と生》と対比している。