《ユディトI》
- 作者
- グスタフ・クリムト
- 制作年
- 1901年
- 素材
- キャンバス / 油絵具 / 金
- 寸法
- 84 × 42 cm
- 所蔵
- ベルヴェデーレ美術館
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
- 流派
- アール・ヌーヴォー
金地を背に、半ば目を閉じた女が唇を開いている。画面の右下の暗がりには、彼女が手にした男の首がのぞく。旧約聖書外典の女傑ユディトを、クリムトは英雄ではなく恍惚とした女として描いた。
概要
《ユディトI》(独: Judith I)は、グスタフ・クリムトが1901年に描いた油彩画である。縦84センチ、横42センチで、キャンバスに油彩と金箔を用いる。ウィーンのベルヴェデーレ美術館が所蔵する。アール・ヌーヴォーの装飾と官能が結びついた画面で、画家の「黄金様式」の出発点に置かれる一点である。
画面の読み解き
主題は旧約聖書外典「ユディト記」で、敵将ホロフェルネスを酒に酔わせて首を切り落とした寡婦の物語による。ただし画面に剣も血もない。女は宝石を並べた幅広の金の首飾りを着け、金と青の文様をあしらった薄い衣を胸元まで開いている。半ば閉じた目と開いた唇には、勝利の誇りよりも恍惚の色が濃い。手にした首は画面の右下の隅に、髪と頬の一部だけを見せて断ち切られている。背景は金地で、様式化された木と実の文様が敷きつめられる。左下に金の枠で囲んだ「GVSTAV KLIMT」の署名がある。
技法・様式
金箔を貼った平らな地と、絵具で丸みを与えた肌とが、同じ画面で接している。文様の部分は奥行きを持たず、顔と胸と腕だけが立体として浮かび上がるため、女は装飾の中から現れたように見える。縦長の細い画面は人物を立ち姿のまま切り取り、視線を上下に往復させる。父と弟が金工を生業としていたこと、ビザンティンのモザイクへの関心、そして日本の美術への傾倒(ジャポニスム)が、この金と文様の扱いの下敷きにある。
来歴
金属の額はクリムトの弟ゲオルクが作ったもので、上辺に「JUDITH UND HOLOFERNES」と刻まれている。発表当時、その官能的な扱いからサロメを描いたものと受け取られ、展覧会や図版で長く「サロメ」と記されてきたため、題名を額に刻んで正した経緯がある。額は作品と一体のものとして扱われ、館の画像にも写り込んでいる。寸法欄の84×42センチは画面だけの寸法である。モデルは、のちに肖像を二点描かれることになるウィーン社交界のアデーレ・ブロッホ=バウアーとみられている。現在はベルヴェデーレ美術館が所蔵番号4737で収める。
意義
首を提げた女を英雄ではなく恍惚の相で描いたことは、世紀末ウィーンが好んだ「宿命の女」の図像を決定づけた。クリムトは1909年にも《ユディトII》(ヴェネツィアのカ・ペーザロ)を描くが、そこでは表情が険しくなり、本作の誘うような甘さは消えている。金地と文様で人物を包む方法は、この作品から《接吻》へとまっすぐに続いていく。