《トカゲに噛まれた少年》
- 作者
- カラヴァッジョ
- 制作年
- 1594–1595年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 66 × 49.5 cm
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- イタリア・バロック絵画
耳にバラを挿した少年が、指に食いついたトカゲに驚いて身をのけぞらせ、口を開けて顔をしかめる。手前の台にはサクランボやプラムが置かれ、バラとジャスミンを挿したガラスの花瓶には部屋の様子が映り込む。
概要
《トカゲに噛まれた少年》は、イタリアの画家カラヴァッジョが1594年から1595年頃に描いた油彩画で、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。館の記録では、カンヴァスに描かれ、縦66センチ、横49.5センチ。所蔵番号はNG6504で、第32室に展示されている。館によれば、館にある3点のカラヴァッジョのうち最も早い作品で、画家が斬新な作風で名を上げ始めた1590年代半ばに、おそらくローマで描かれた。
画面の読み解き
館の解説によれば、巻き毛に厚い唇、片耳にバラを挿した若者が、指に執拗に食らいつくトカゲに噛まれて驚き、身をのけぞらせている。若者は思いがけない痛みに手を引っこめる動きの途中でとらえられ、その顔には驚きが刻まれている。手前には、サクランボとプラムの見事な静物と、バラとジャスミンの小枝を挿したガラスの花瓶がある。よく見ると、花瓶の丸い表面には部屋の様子が映り込んでいる。画面では、少年は白い衣を肩からずり落ちさせ、暗い背景の前で、左上からの光に照らされている。
技法・様式
館によれば、16世紀末の絵画がこのような動きの一瞬を描くのはきわめて珍しい。カラヴァッジョは、紙の上で多くの習作を用意することなく、生きたモデルからじかにカンヴァスに描いた。この新しいやり方は、アンニーバレ・カラッチのような古典主義的な画家たちと彼を分けるもので、伝統的な制作の一段階をまるごと省くことは大きな論議を呼んだが、作品に直接性と強さを与え、たちまち人気を得た。カラヴァッジョはローマに出たはじめ、ほかの画家の工房で静物画を専門にしていた。当時、静物画は人物画より劣るとみなされていたが、彼は果物や花を描くことにも人物と同じだけの技量が要ると主張し、その表現を新たな高みに引き上げた。
来歴
館によれば、カラヴァッジョの伝記作者たちは少年がトカゲに噛まれる絵について記しており、本作はほぼ確実に、特定の注文主のいない売り物として描かれた。館の来歴では、確実な記録はポール・メシュエン卿の収集に始まり、1809年までにはニューナムのハーコート子爵の収集にあって、19世紀にはムリーリョの作とされていた。1948年にクリスティーズの競売で映画製作者ヴィンセント・コルダが買い、1986年に館がJ・ポール・ゲッティ・ジュニア基金の援助を得て購入した。
意義
館は、この印象的な絵の正確な意味ははっきりしないとし、恋から生じる痛み、つまり美しいものの陰にひそむ思わぬ危険への戒めとする解釈、バラを命と美のはかなさの象徴とするヴァニタスとしての解釈、五感のうちの触覚とする解釈、さらに、生きたモデルや画家自身の鏡像を写した極端な表情の習作とする見方を挙げている。館によれば、このように身近な世界に根ざした斬新な作品が、1595年からカラヴァッジョを自邸に住まわせるフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿のような有力な後援者の目を引いた。同じ主題の初期の模写や派生作は数多く、フィレンツェのロンギ財団にある質の高い版は、多くの研究者がカラヴァッジョ自身の作と考えている。館は、ほかに《エマオの晩餐》と《洗礼者ヨハネの首を受け取るサロメ》を所蔵している。