《エマオの晩餐》
- 作者
- カラヴァッジョ
- 制作年
- 1601年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 141 × 196.2 cm
- 所蔵
- ロンドン・ナショナル・ギャラリー (NG172)
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- イタリア・バロック絵画
白い卓布の向こうで、赤い衣の若いキリストが右手を上げてパンを祝福する。右の老いた弟子は両腕を大きく広げ、手前の弟子は椅子から立ち上がりかける。左では宿屋の主人が、帽子をかぶったまま黙って見下ろす。
概要
《エマオの晩餐》(英: The Supper at Emmaus)は、イタリアの画家カラヴァッジョが1601年に描いた油彩画で、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。縦141センチ、横196.2センチのキャンバス。所蔵館によれば、画家の名声が頂点にあった時期の作で、個人の邸宅のために描かれた宗教画のなかでも、とりわけ印象深い一点である。主題はルカによる福音書24章で、十字架刑の3日後、エマオへ向かう二人の弟子が復活したキリストと出会い、夕食の席でパンを裂く姿を見て、はじめてそれがキリストだと気づく場面を描く。
画面の読み解き
所蔵館によれば、カラヴァッジョは、弟子たちが目の前にいた人物の正体に突然気づく瞬間をとらえた。手前の弟子は椅子から跳び上がりかけ、肘をこちらへ突き出す。右の弟子は信じられないというように両腕を広げ、その姿は十字架刑のキリストを思わせる。手前の弟子はクレオパ、右の弟子はペテロとされることが多く、館の音声解説によれば、右の弟子の胸には巡礼者のしるしの帆立貝の徽章がある。弟子たちはしわの刻まれた顔とほころびた服の労働者として描かれ、ひげのない若いキリストは、赤い衣と流れる髪で別の世界から来たように見える。宿屋の主人は影の中で親指を帯に挟み、無表情に見守っている。
技法・様式
所蔵館によれば、左からの強い光が、キリストと右の弟子の顔を照らし、キリストの背後の壁に、後光を裏返したような影を落とす。こうした明暗の対比(キアロスクーロ)が場面の劇的な緊張を高める。手前の弟子の背中と、極端な短縮法で描かれた右の弟子の腕が、視線をキリストの顔へ導く。白い卓布の上のパン、鶏、卓の端から落ちそうな果物籠も、同じ光の中で細密に描かれる。館の技術調査では、ワイングラスの台の輪郭のわずかに上に暗褐色の筆による下描きの跡が見つかった。大きな描き直しは、右の弟子の左膝を卓掛けの前から後ろへ移した一点だけで、入念に計画された作品であることを示すという。
来歴
所蔵館によれば、1601年、聖マタイを描いた初の大作で評判を得たのちに、カラヴァッジョの庇護者チリアコ・マッテイが注文した。まもなくマッテイ家を離れて枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼのものとなったとみられ、1650年にはローマのボルゲーゼ荘で記録されている。1801年4月9日にカミッロ・ボルゲーゼ公がほかの絵とともにデュランに売り、1831年までにジョージ・ヴァーノンの所有となった。1839年にヴァーノン卿が寄贈し、同館が所蔵するカラヴァッジョ3点のうち最初に収蔵された。
意義
所蔵館は、本作をカラヴァッジョの作品のなかでもおそらく最も名高いものとする。卓上の食べ物や飲み物が手に取れるほど現実的に見えることで、奇跡もまた現実のものとして感じられる、と館は解説する。実在のモデルをもとに人物を描く手法は、物語の絵画に新しい迫真性をもたらし、同時代の画家たちに深い印象を与えた。