クレジット方針 収録範囲について お問い合わせ
作品COLLECTION 画家ARTISTS 流派MOVEMENTS 時代PERIODS 所蔵MUSEUMS 様式史HISTORY 用語集GLOSSARY 検索SEARCH

《真珠の首飾りの女》

Vrouw met een parelsnoer
《真珠の首飾りの女》ヨハネス・フェルメール
Wikimedia Commons / ベルリン絵画館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
ヨハネス・フェルメール
制作年
1663–1665年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
56.1 × 47.4 cm
広告

ヨハネス・フェルメールが1663〜1665年頃に描いた室内画。黄色い上着の若い女性が、窓から差す光の中で真珠の首飾りを結び、壁の鏡を見つめる。何もない白い壁を大きく残した画面に、静かな一瞬がとらえられている。

概要

《真珠の首飾りの女》(蘭: Vrouw met een parelsnoer、独: Junge Dame mit Perlenhalsband)は、ヨハネス・フェルメールが1663〜1665年頃に描いた油彩画である。窓辺に立つ若い女性が、真珠の首飾りのリボンを両手で持ち上げ、壁に掛かった小さな鏡に見入っている。1660年代前半に描かれた、一人の女性が静かに何かに向き合う小さな室内画の一つで、オランダ黄金時代の絵画の代表作としてベルリン絵画館が所蔵する。

来歴

フェルメールの没後の1696年、アムステルダムでフェルメール作品21点を含む競売が開かれ、その目録にある「身を飾る若い婦人」が本作にあたるとされる。19世紀にはドイツ・アーヘンの銀行家バルトルト・ズールモントの収集に入り、1874年、ベルリンの王立美術館がそのコレクションとともに購入した。日本でも2012年に国立西洋美術館の「ベルリン国立美術館展」で公開され、2023年にはアムステルダム国立美術館のフェルメール展に、同館の《紳士とワインを飲む女》とともに貸し出された。

画面の読み解き

左上の窓から、鉛の枠にはめたガラスを通して冷たい光が差し込み、黄色いカーテンを透かして部屋を満たす。毛皮で縁取られた黄色い上着の女性は、首にかけた真珠の首飾りの黄色いリボンを両手でつまみ、窓の脇に掛かった鏡を見つめている。耳には真珠の耳飾りが光る。手前の机には蓋つきの中国風の壺、化粧用のはけ、宝石箱、櫛が置かれ、暗い色の布が机の大半を覆う。右下には、画面の端で切れた椅子がのぞく。

女性と鏡のあいだには、明るく塗り分けられた何もない壁が大きく広がる。見る者の視線は、女性の視線をたどって鏡へ移り、机の上の布を回って女性の手と顔へ戻ってくる。鏡に映っているはずの姿は描かれず、画面にあるのは筋書きのない、見ることそのものの時間である。

朝の身支度は当時よく描かれた主題で、ヘラルト・テル・ボルフやフランス・ファン・ミーリスにも近い作例がある。首飾りや化粧を、この世の贅沢への戒め(ヴァニタス)や高慢の象徴として読む解釈もあるが、ベルリン絵画館は、フェルメールが物語や教訓を削ぎ落とし、見るという感覚の豊かさそのものを描いたとみている。

技法・様式

キャンバスに油彩で描かれている。技術的な調査によって、はじめは右手前の椅子にリュートのような弦楽器が置かれ、女性の背後の壁には地図が掛けられていたことがわかっている。フェルメールはそれらを塗りつぶし(ペンティメント)、白い壁を画面の中心に残した。消失点を机の天板のやや上に置くことで人物と事物に堂々とした大きさを与え、カーテンや上着の黄色と、手前の青みを帯びた暗がりとを対比させて、壁の繊細な明暗の階調を際立たせている。

意義

窓辺の光、黄色い上着、壁の地図や鏡といった要素は、《天秤を持つ女》や《手紙を書く女》など同じ頃の作品にも繰り返し現れる。なかでも本作は、描き込んだものを取り除いて画面を簡潔にし、日常の一瞬に張りつめた静けさを与えた点で、フェルメールの室内画の到達点をよく示している。1860年代に画家が再評価されると、こうした静かな室内画こそがフェルメールらしさとして広く知られるようになった。