《紳士とワインを飲む女》
- 作者
- ヨハネス・フェルメール
- 制作年
- 1658–1660年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 67.7 × 79.6 cm
- 所蔵
- ベルリン絵画館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- オランダ黄金時代の絵画
左の窓から冷たい光が差す部屋で、赤い衣の若い女がグラスを傾けてワインを飲み干し、つば広の帽子に緑のマントの紳士が白い水差しを手にかたわらに立つ。手前の椅子にはシターンが置かれている。
概要
《紳士とワインを飲む女》は、オランダの画家ヨハネス・フェルメールが1658年から1660年にかけて描いた油彩の風俗画で、ベルリン絵画館が所蔵する。館の題は「ワインのグラス(Das Glas Wein)」。館の記録では、カンヴァスに描かれ、縦67.7センチ、横79.6センチ。所蔵番号は912Cで、館の2023年の告知によれば、ふだんは第18室に展示されている。
画面の読み解き
館の解説によれば、左手の二つの窓のうち主に手前の窓から差しこむ冷たい昼の光の中で、若い女がテーブルについてワインを飲んでいる。女はグラスを顔に押し当てて飲み干そうとしており、その姿は、水差しを手に、自分のグラスは持たずに注ぎ足そうと待っている優雅な紳士のまなざしを避けようとしているかのようである。いかがわしい恋の関係が始まりかけているが、場面には粗野なところや、あからさまに官能的なところはない。椅子とテーブルにはシターンと楽譜が置かれ、二人が一緒に音楽を奏でていたことをほのめかしているのかもしれない。画面では、赤い衣に白い頭巾の女が右の椅子に座り、黒いつば広の帽子に緑のマントの紳士がその背後に立つ。壁には金の額の絵がかかり、床には色違いのタイルが市松に敷かれている。
技法・様式
館によれば、左のわずかに開いた窓のステンドグラスの紋章には、編まれた紐を手にした女の姿が描かれている。同じような像は、ガブリエル・ローレンハーゲンが1617年に刊行した寓意画集にあり、そこでは紐は馬具で、直角定規と並ぶ「節制」の持ち物とされる。添えられた銘文は「幸運の息吹を受けた心は、節度を守ることも、感情に手綱をかけることも知らない」という意味で、館はこれを、ワインを飲むことだけでなく、二人の関係とその先に見込まれる自制の欠如全体に向けた、「節度を守れ」という戒めだとする。館によれば、本作でフェルメールは人物を間近に見せる構図を初めて捨て、テーブルの手前の空いた椅子で見る者を隔てて一歩下がらせた。人物は室内の一部として捉えられ、その工夫には、デルフトで3歳年上の画家ピーテル・デ・ホーホの最初の傑作群の影響がうかがえる。
来歴
館の記録によれば、本作は1901年に、イギリスのディープディーンにあったペラム・クリントン・ホープの収集から購入された。2023年には、アムステルダム国立美術館で2月10日から6月4日まで開かれた、それまでで最大のフェルメール回顧展に、同じ館の《真珠の首飾りの女》とともに貸し出され、1月16日から6月半ばまでベルリンでは展示されなかった。
意義
館の解説によれば、フェルメールはここで、オランダの風俗画家たちにおなじみの主題を作り変えている。手本になったのは、婦人が飲むのを紳士が瓶に手をかけて見守るヘラルト・テル・ボルフの絵かもしれないが、テル・ボルフの紳士が婦人の肩に腕を回しているのに対し、フェルメールは二人の関係をはっきりとは示さず、酒が放蕩に終わるかどうかは分からないままである。フェルメールは同じ寓意像を、紳士の誘いがはるかにあからさまなブラウンシュヴァイクのアントン・ウルリッヒ公美術館の《ワイングラスを持つ娘》でも用いた。館は、本作が緻密に計算された構図と、表面の質感を描き分ける写実の筆によって、デ・ホーホ型の室内をフェルメールがどこまで高めえたかを示しているとする。日本語版ウィキペディアによれば、研究者の評価は分かれ、美術史家ウォルター・リトケが技量を身につけたことを示す最初の作品の一つと称える一方、概して過渡期の作品とみなされ、ローレンス・ゴーイングはハブリエル・メツーの作に比べて打ち解けた流暢さに欠けると評した。