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《ヴィーナスとアドニス》

Venus y Adonis
《ヴィーナスとアドニス》パオロ・ヴェロネーゼ
Wikimedia Commons / プラド美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
パオロ・ヴェロネーゼ
制作年
1580年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
162 × 191 cm

緑の茂る林で、旗の形の扇を手にしたヴィーナスが膝に眠るアドニスをあおぐ。アドニスは橙色の衣で角笛に手を置いて横たわり、手前ではキューピッドが猟犬を引きとめ、もう一匹の犬が足元に伏せる。

概要

《ヴィーナスとアドニス》は、ヴェネツィアの画家パオロ・ヴェロネーゼが1580年頃に描いた油彩の神話画で、マドリードのプラド美術館が所蔵する。館の記録では縦162センチ、横191センチのキャンバスで、所蔵番号はP000482。館の第26室に展示されている。人物は等身大で描かれている。対になる作品は、ストラスブール美術館の《ケパロスとプロクリス》である。

画面の読み解き

館の解説によれば、本作は対作品と同じく、ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』の一節を描いたもので、どちらも死によって断ち切られる愛の物語である。ここでは、狩りに出た恋人の死を予感するヴィーナスの悲しみが描かれる。『変身物語』第10巻でヴィーナスは、猪は曲がった牙に稲妻の力を持つと若い狩人に警告した。やがて犬たちがそうした猪の跡をかぎつけてアドニスを導き、猪が彼を殺すことになる。ヴィーナスは、キューピッドが猟犬の一匹を引きとめているのに気づいたところである。弓を落とした幼子は、矢筒を脚でかろうじて挟んでいる。開いた口、見開いた目、上がった眉は驚きを示し、まもなく激しい痛みを知ることになる。アドニスはヴィーナスの膝に横たわり、右手を角笛に置く。その眠りは二人の恋の直後を思わせると同時に死を予告し、その姿は死んだキリストを膝に抱く聖母の「ピエタ」の構図を思い起こさせる。緑豊かな林は、古代と当時の牧歌が描いた恋の理想の場所を思わせる。

技法・様式

館によれば、ローマに滞在したのちに描かれた本作で、画家はキューピッドの姿をヘレニズム期の彫刻《鵞鳥を抱く少年》から、アドニスの姿をローマのサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ聖堂にある古代の石棺のエンデュミオン像から取った。腰を下ろしてひねったヴィーナスの姿勢は、ビテュニアの彫刻家ドイダルサスの作ともされる、水浴を驚かされてうずくまるアフロディテの古代彫像に着想を得ている。ヴィーナスは片腕で裸の上半身をできるだけ覆い、流行のヴェネツィアの女性のように金の腕輪と真珠の首飾りをつけ、旗の形の扇でアドニスをあおぐ。ヴィーナスの紫がかった青の衣にはオスマン帝国の織物に倣った花の文様があり、アドニスの衣はそれと補い合う鮮やかな橙色である。この橙は鉛丹と、ヒ素を含む鶏冠石を合わせてつくられた。館によれば、当時の純粋な橙の顔料はこれだけで、橙はヴェロネーゼの絵にはよく現れるが、ほかでは珍しかった。

来歴

館によれば、本作はディエゴ・ベラスケスがイタリアで買い入れた。館の解説はその入手を第2回イタリア旅行(1649〜1651年)中とするが、来歴欄は1643年にヴェネツィアで入手したと記している。のちにマドリードの王宮の目録に1772年、1794年、1814年から1818年に記録され、王室コレクションからプラド美術館に入った。

意義

館は、ヴェロネーゼを美の画家として紹介する。ヴェネツィア派の擁護者マルコ・ボスキーニは1660年の『絵画航海図』で、ヴィーナスはパオロが誰よりも自分の姿をよく写すので彼を選んだ、と詠んだ。二人の重い布の衣は、ヴェロネーゼの鮮やかな色彩の名声を示し、その絵が美、とりわけ色と色の調和を味わうことを教えてくれることを伝えている。同じ画家の作品には、ルーヴル美術館の《カナの婚礼》や、ヴェネツィアのアカデミア美術館の《レヴィ家の饗宴》がある。