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《吸血鬼》

Vampyr
《吸血鬼》エドヴァルド・ムンク
Wikimedia Commons / ムンク美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
エドヴァルド・ムンク
制作年
1893年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
77.5 × 98.5 cm
流派
象徴主義
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青黒い闇の中で、身をかがめた男を女が抱き寄せ、そのうなじに顔を押しあてている。女の赤い髪が男の頭と背に流れ落ちる。慰めの抱擁とも、血を吸う姿とも見える。

概要

《吸血鬼》(ノルウェー語: Vampyr)は、エドヴァルド・ムンクが1893年に描いた油彩画である。縦77.5センチ、横98.5センチ。オスロのムンク美術館が所蔵する。ムンク自身は《愛と痛み》と題したが、友人の作家スタニスワフ・プシビシェフスキが「吸血鬼」と呼んだことから、この名で知られるようになった。愛と死をめぐる連作「生命のフリーズ」の一点で、象徴主義を代表する作品の一つである。

画面の読み解き

青と黒に塗りこめられた闇の中央で、女が身をかがめた男を抱き寄せている。男は女の胸もとに頭を沈め、顔はほとんど見えない。女は男のうなじに顔を押しあて、長い赤い髪が男の頭から背へ流れ落ちて、網のように覆いかぶさる。女の白い腕は男の肩を抱え、手は男の髪に添えられている。画面の中で明るいのは女の腕と顔、そして赤い髪だけで、二人の背後には暗い影が大きく広がる。部屋や家具を示すものは何も描かれていない。

技法・様式

絵具は薄く溶かれ、粗い筆で素早く置かれていて、キャンバスの目が透けて見えるところも多い。形は線で閉じられず、闇の中から腕と髪だけが浮かび上がる。細部を描き込まず、色の対比と人物の配置だけで気分をつくる方法は、ムンクが1890年代のベルリンで確立したものである。同じ構図は1893年から1895年にかけて油彩で何点も描かれ、1895年にはリトグラフと木版を組み合わせた版画にもなった。

来歴

油彩の版はほかにヨーテボリ美術館などが所蔵し、1894年の版は2008年にサザビーズで約3820万ドルで落札された。本作はムンク美術館の所蔵で、所蔵番号MM.M.00292。署名はない。同館の所蔵品は、画家が遺言でオスロ市に遺した作品を中核とする。

意義

ムンクは、描いたのは男の首に口づけする女にすぎないと語り、吸血鬼という読みを退けた。しかし、慰めの抱擁とも、男の力を吸い取る女とも見える両義性こそが、この絵を世紀末の不安の象徴にした。愛がそのまま苦しみでもあるという主題は、《マドンナ》や《嫉妬》とともに「生命のフリーズ」の中心をなし、のちの表現主義の画家たちにも強い印象を残した。