《若い羊飼いの娘》
遠くに羊の群れが草をはむ丘の道に、裸足の少女が立つ。白いブラウスに紐で締めた胴着、青いスカートをまとい、後ろ手に木の小枝を持って、肩越しにこちらを見つめる。背後には淡い青空と白い雲が広がる。
概要
《若い羊飼いの娘》(仏: La Jeune Bergère)は、フランスの画家ウィリアム・アドルフ・ブグローが1885年に描いた油彩画で、アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンディエゴ美術館が所蔵する。館は本作を、館で最も人気のある絵の一つとしている。縦157.5センチ、横72.4センチの縦長の画面に、羊の番をする少女の全身像を描いた風俗画である。ブグローがサロンの大賞を受けた1885年の作にあたる。
画面の読み解き
画面のほぼ全体を、一人の少女の立ち姿が占める。少女は体を右に向けて立ち、顔だけを振り返らせて、静かなまなざしをまっすぐこちらに向けている。黒い髪は後ろでまとめられ、風に吹かれた後れ毛が額や耳もとに揺れる。白い袖をまくり上げたブラウスに、紐で編み上げた生成りの胴着、腰には濃い青の布を巻き、その下に明るい青のスカートをはく。両手を背中に回して小さな木の枝をつまみ、足は裸足のまま、小石の転がる土の道を踏んでいる。左には枯れ草の土手が盛り上がり、右の奥には平らな牧草地が広がって、白い羊の群れが草をはむ。遠くの青い丘の上には、淡い空と白い雲がのぞく。
技法・様式
館は2019年の展覧会の告知で、ブグローが細かな鉛筆の素描と油彩の下絵から始めて大きな画面を仕上げたことを紹介している。本作でも、日に焼けた素足や手の肉づき、布のしわと光沢が、筆跡を感じさせないなめらかな仕上げで描き分けられる一方、背景の土手や草むらは、ややくだけた筆づかいで描かれている。英語版ウィキペディアは、羊飼いの娘という主題が、古代ギリシアの詩と美術に始まり、フランスではクロード・ロランやプッサン、ヴァトーが受け継いだ牧歌の伝統に連なるものだとしている。
来歴
所蔵番号は1968:82。ウィキメディア・コモンズに残る館の旧作品頁の記録では、キャンバスに油彩で、キャンバスは板に貼られており、署名は左下にある。館の歴史によれば、館は1926年にサンディエゴ美術ギャラリーとして開館し、1966年に西棟が完成して展示の広さが倍になった。1960年代の終わりから1970年代にかけては寄贈が相次ぎ、19世紀と20世紀のヨーロッパ美術の収集が充実した。1978年に現在のサンディエゴ美術館の名となっている。
意義
館は2019年11月9日から2020年3月15日まで、ブグローの絵画およそ40点を集めた「ブグローとアメリカ」展を開き、本作を館の常設の収集から加わる「愛される作品」として紹介した。告知によれば、アメリカの収集家や富裕層は、工業化が進む19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、恵まれない人々を牧歌的で時を超えた情景のなかに描くブグローの力に引きつけられた。その名声は印象派の登場とともに衰えたが、館はこの展覧会を、近代主義の偏りから離れて画家を見直す機会と位置づけた。館長ロクサナ・ベラスケスも、本作と19世紀美術の女性像の型について講演している。同じ画家の《羊飼いの少女》(1889年)も、田園の少女を描いた作品である。