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《エステルの化粧》

Esther se parant pour être présentée au roi Assuérus
《エステルの化粧》テオドール・シャセリオー
Wikimedia Commons / ルーヴル美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
テオドール・シャセリオー
制作年
1841年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
45.5 × 35.5 cm

金髪の若い女が両腕を頭上に上げて髪を結い、上半身をあらわにして座る。左では青い頭巾の侍女が金の器を抱え、右ではターバンの男が宝石箱を差し出す。足もとには虎の毛皮が敷かれている。

概要

《エステルの化粧》(仏: La Toilette d'Esther)は、フランスの画家テオドール・シャセリオーが1841年に描いた油彩画である。縦45.5センチ、横35.5センチの小さなキャンバスで、ルーヴル美術館が所蔵する。正式な題は「アハシュエロス王に会うために身を飾るエステル」で、旧約聖書のエステル記に取材する。翌1842年のサロンに出品された。

画面の読み解き

画面の中央で、金髪のエステルが両腕を頭上に上げて髪を結い、上半身をあらわにして座る。腕と手首には金の飾りが光り、腰から下は白い布に覆われ、その上をサーモン色の布が斜めに横切る。左では青い衣と頭巾の侍女が金の器を抱え、右では赤い衣にターバンを巻いた黒人の男が宝石箱を差し出す。グラン・パレ国立美術館連合の歴史解説サイト『L'Histoire par l'image』(アレクシ・メルル・デュ・ブール)によれば、これは無表情な侍女と虎の毛皮、宝石箱をそなえたハーレムの場面である。ユダヤ人モルデカイの養い子エステルは、王妃ワシテを退けたアハシュエロス王の宮殿の女たちの居室に入り、宦官ヘガイの目にかなって、新しい王妃に選ばれるかもしれない王への目通りのために身を飾る。ヘガイは本作ではムーア人の姿で表される。先人たちが好んだのは、民を滅びから救うために命がけで王に会うエステルだったが、シャセリオーはそれより前の、描かれることの少ない場面(第2章)を選んだ。

技法・様式

キャンバスに油彩で描かれる。同解説によれば、構図には空白を嫌う「ホロル・ヴァクイ」がうかがえ、画面を埋め尽くす人と物のために、侍女と宦官は体の一部しか見えない。奥行きも乏しく、場面の場所は定めようがない。色づかいは繊細で、とくにエステルの真珠色の肌から脚を覆う布まで、白のさまざまな階調が使い分けられる。首や腕を意図的に引き伸ばした解剖学の自由は、ルネサンスの美意識や、師ドミニク・アングルの不思議なねじれを思わせる。金髪のエステルは、リヒテンシュタイン侯爵家にあるルーベンスの《ヴィーナスの化粧》に想を得たのかもしれないという。

来歴

所蔵館によれば、本作は1842年のサロンに出品され、1934年、アルテュール・シャセリオー男爵の遺贈で所蔵館に入った。所蔵番号はRF 3900。同解説によれば、前年にイタリアから戻り、師アングルと決定的に決別したばかりのシャセリオーは、この年のサロンに本作を含む数点を出品した。批評家は色彩家としての力量を認めたが、画面を包む奇妙な雰囲気には戸惑いを見せた。いまはシュリー翼の、ドラクロワの作品を集めた第942室に展示されている。

意義

同解説は、本作を画家の最も名高い絵の一つとし、22歳のシャセリオーが、東方の香りを帯びた夢のような官能によって歴史画の刷新に踏み込んだ作とみる。1846年にアルジェリアを訪れる前の、見たことのない夢想のオリエントであり、ヴィクトル・ユゴーが1829年の詩集『東方詩集』で歌った「寵姫」とも響き合う。敬虔なエステルの賛美よりも、女性の誘惑の力が前に出るこの絵は、風俗画と歴史画の境をあいまいにし、のちの《後宮の浴室》(1849年、ルーヴル美術館)や《テピダリウム》(1853年、オルセー美術館)の女性たちへとつながっていく。