《ミヤマガラスの飛来》
雪の残る村はずれで、葉のない白樺の梢にミヤマガラスが群れて巣を作る。木立の向こうには板塀と家々、鐘楼のある教会が見え、雪解けの水たまりが光る。その先には平らな大地が広がり、重い雲の切れ間から空がのぞく。
概要
《ミヤマガラスの飛来》(露: Грачи прилетели)は、ロシアの画家アレクセイ・サヴラソフが1871年に描いた油彩画である。縦62センチ、横48.5センチ。春を告げる鳥ミヤマガラスが村に戻ってきた、雪解けの頃の村の景色を描いた風景画である。モスクワのトレチャコフ美術館が所蔵し、画家の最もよく知られた作品とされる。
画面の読み解き
雪の残る村はずれに、葉を落とした白樺が数本立ち、その梢にミヤマガラスが群れて巣をかける。木立の向こうには板塀と家々、鐘楼のある教会が並び、手前の雪の上にも一羽が降りている。雪解けの水たまりが空を映し、その先には平らな大地が地平線まで広がる。英語版ウィキペディアによれば、教会のモデルは、コストロマ県のモルヴィチノ村(現在のスサニノ)に17世紀末に建てられた復活教会で、左下には「1871年、モルヴィチノ村、A・サヴラソフ」と記されている。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。トレチャコフ美術館の英文誌によれば、画家は1871年の春にヴォルガ河畔のヤロスラヴリで制作に取りかかり、春の訪れの遅いモルヴィチノ村で仕事を続けた。英語版ウィキペディアによれば、村での習作をもとにヤロスラヴリで描き進め、5月にモスクワへ戻って仕上げた。東京外国語大学の井伊裕子の報告(2019年)は、当時の風景画の多くが横長の画面を空と大地に二分していたのに対し、本作は複雑な空間の構成と、冬から春へ移り変わる時を描いた新しさが際立っていたと指摘する。
来歴
英語版ウィキペディアによれば、1871年の夏、完成した絵を見たパーヴェル・トレチャコフが一級の作品と認めて画家から買い取った。同年秋にモスクワ美術愛好家協会の展覧会に出たのち、11月にサンクトペテルブルクで開かれた第1回移動派展に《ミヤマガラスが飛んできた!》の題で並んだ。1878年にはパリ万国博覧会にも出品されている。所蔵番号は828。
意義
英文誌によれば、本作はロシアの子どもなら誰もが知る絵で、画家のクラムスコイは展覧会の風景画のなかで「魂」があるのはこの絵だけだと書き、教え子のイサーク・レヴィタンは師を「ロシア風景画の創始者」と呼んだ。井伊の報告によれば、本作は第1回移動派展の当時から今日まで際立って高い評価を受け、ロシアの風景を絵画にしたものとしてだけでなく、構図とモチーフの新しさに大きな注目が集まっていた。