《教会の聖母子》
天井の高いゴシックの聖堂の中に、宝石の冠をかぶり濃い色のマントをまとった聖母が、幼子を抱いて立つ。窓から差す光が床に明るい斑をつくり、奥の仕切りの壁の向こうでは天使たちが歌う。
概要
《教会の聖母子》は、初期フランドル派の画家ヤン・ファン・エイクが1437年から1440年頃に描いた油彩の板絵で、ベルリン絵画館が所蔵する。館の記録では、上辺が半円形のオーク板に描かれ、画面は縦31.1センチ、横13.9センチにすぎない。館の解説は、ファン・エイクの作品のなかでも最も美しく貴重なものの一つとし、15世紀と16世紀の模写が残ることから、この小さな板絵の芸術上の高い地位は早くから認められていたと述べる。
画面の読み解き
館の解説によれば、ファン・エイクは聖母子を、ゴシックの聖堂の巨大な建築をなお上回るほどの大きさで描き、人の想像の及ぶ範囲を超えた存在として示した。初期キリスト教の時代から、キリストが聖母の胎内に神殿のように宿ったことから、聖母は「神の神殿」「神の家」と呼ばれてきた。奥の内陣の主祭壇の前には、聖歌集を手に歌う天使たちが見える。彼らは秘跡と救済の深い結びつきと、終わりの時の永遠のミサを指し示す。
技法・様式
館の解説によれば、建築の細やかな描写と光の微妙な段階づけが、聖堂の内部に目の前にあるかのような現実感を与えている。高窓と側面の入口から差し込む昼の光と、壁や床に落ちる日の反射は、時の流れを思わせながら、時が止まっているようにも見せる。中世の神学では、窓を割らずに通り抜ける日の光は、処女のまま母となった聖母の喩えだった。ファン・エイクが光の描写に心を砕いたのはそのためで、光は神の象徴であり聖母の標でもある。ゴシックの聖堂では内陣が東を向くのが決まりなので、この絵の光は南からではなく、現実に反して北から差し込んでいることになる。館はそれを、太陽や星の動きに従わない永遠の光と読む。
来歴
館の記録によれば、本作は1874年、銀行家バルトルト・ズエルモントの収集とともに購入され、ベルリンの所蔵となった。所蔵番号は525C。額を含めた寸法は縦34.8センチ、横17.8センチである。
意義
館によれば、この光の象徴は、仕切りの壁の壁龕で聖母の彫像の脇に灯る蝋燭にも引き継がれている。その像は手前の生き生きとした聖母とよく似ていて、命のない像が奇跡によって目覚めたかのようであり、現実と幻視が一つになっている。同じ頃のファン・エイクの聖母子には《ルッカの聖母》があり、聖母を建築の中に描いた作品には《宰相ロランの聖母》がある。