《乾草の車》
- 作者
- ジョン・コンスタブル
- 制作年
- 1821年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 130.2 × 185.4 cm
- 所蔵
- ロンドン・ナショナル・ギャラリー (2026年7月11日〜10月4日はイプスウィッチのクライストチャーチ・マンションに貸出)
- 時代
- 新古典・ロマン
- 流派
- ロマン主義
夏の昼、水車場の浅い池を、3頭の馬に引かれた空の荷車が渡っていく。左には赤い屋根の農家が建ち、岸では白黒の犬が荷車を見つめる。奥の牧草地では人々が干し草を集め、空には雲が大きく広がる。
概要
《乾草の車》(英: The Hay Wain)は、イギリスの画家ジョン・コンスタブルが1821年に描いた油彩画である。縦130.2センチ、横185.4センチのキャンバスで、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。所蔵館によれば、画家がストゥール川一帯を舞台に、1819年から1825年にかけてロイヤル・アカデミーに出品した大きな風景画の3点目である。
画面の読み解き
所蔵館によれば、描かれているのは、ストゥール川のフラットフォードにある水車場の池である。左の赤い屋根と白い壁の家には、画家の時代、小作農のウィリー・ロットが住んでいた。家の前の足場では、女性が水差しを手に身をかがめて水をくむ。題の「wain」は、刈って乾かした草を運ぶ木の荷車のことで、空の荷車は浅い池を進み、前輪はすでに右へ向きを変えて、フラットフォードの名の由来になった平らな浅瀬を渡ろうとしている。向こう岸の牧草地では、一人が大鎌を研ぎ、ほかの人々は奥の荷車へ干し草を積み上げる。馬の首輪の厚い赤い房飾りが、緑のなかで明るい色を添える。右端の小舟は、左の家と中央の荷車と釣り合いをとる。水車場そのものは見えず、右端に赤れんがの壁の端がのぞくだけである。館の音声解説は、木の葉にきらめく光を小さな白い点で描いた筆づかいを、批評家たちが「コンスタブルの雪」と呼んだと紹介する。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、サフォークの景色を描いているが、制作はロンドンのアトリエで行われた。画家は何年もかけて屋外で描いた素描や油彩の習作をもとに、まず原寸大の油彩の下絵(ヴィクトリア&アルバート博物館)で構図を固め、それから本作を描いた。下絵の手前にあった馬と騎手は、本作でも描かれたが、制作の最後の段階で塗り消された。館は、浅瀬を渡る荷車という題材が17世紀のフランドルとオランダの風景画にたびたび現れ、画家がそうした絵の、古典に倣わない自然な風景を好んだことを指摘する。荷車の形には、画家が深く感心したルーベンスの作品の影響も考えられるという。
来歴
所蔵館によれば、画家自身はこの絵を《乾草の車》とは呼ばず、1821年に《風景──真昼》の題でロイヤル・アカデミーに出品した。今の題は友人のフィッシャー大執事が付けた呼び名である。評判はよかったが買い手はつかず、1824年に英仏の画商ジョン・アロースミスが、ほかの2点とともに250ポンドで買い取った。のち何人もの収集家と画商の手を経て、1886年にヘンリー・ヴォーンが館に寄贈した。所蔵番号はNG1207で、額は当初のものである。2026年には画家の生誕250年を記念して、故郷サフォークのイプスウィッチにあるクライストチャーチ・マンションに初めて貸し出された(7月11日〜10月4日)。
意義
所蔵館によれば、アロースミスは本作を1824年のパリのサロンに送り、作品は大評判となった。画家はフランス王シャルル10世から金メダルを受け、その理由は主に本作だった。メダルは今、館の資料室にある。1821年のロイヤル・アカデミーでは、フランスの画家ジェリコーと作家ノディエが本作を見ており、ノディエはフランスの画家たちに、ローマへの旅に頼るより自然に目を向けるよう説いた。館は、急速な工業化で暮らしが変わっていくという思いが、少年時代の故郷の景色を記念碑のような大画面に描かせたのだろうとする。