《ダイヤのエースを持ついかさま師》
暗い背景の前で、四人がカード遊びの卓を囲む。左の男は背中に回した手でダイヤのエースを抜き取りながらこちらを振り返り、ターバンの女中がワインを注ぐ。中央の羽根飾りの女が横目で合図を送り、右の着飾った若者は手札に見入っている。
概要
《ダイヤのエースを持ついかさま師》(仏: Le Tricheur à l'as de carreau)は、ロレーヌの画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールが1636年から1640年頃に描いた油彩画である。縦106センチ、横146センチ。カード遊びの卓で、着飾った若者が三人の大人にだまされようとする場面を描く風俗画で、ルーヴル美術館が所蔵する。同じ主題の先行する版《クラブのエースを持ついかさま師》は、キンベル美術館にある。
画面の読み解き
所蔵館によれば、ラ・トゥールは身ぶりと視線のやりとりに最大の注意を払い、うぶな若者をだます周到な仕掛けを浮かび上がらせた。若者の度を越して豪華な服は、その虚栄を表す。遊びはおそらく、ポーカーの先祖にあたるイタリア起源の「プリム」で、カードの組み合わせに賭けをせり上げていく。左端の男は背を見せて斜めに立ち、顔だけをこちらに向けながら、背中に回した手でダイヤのエースを抜き取る。日本語版ウィキペディアによれば、中央の女は横顔の女中に、女中は左端の男に目配せをしており、卓の左の三人は、当時三大悪徳とされた賭博・飲酒・淫蕩を表すとも読まれる。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれ、下の中央に「Georgius De La Tour fecit」の署名がある。所蔵館によれば、構図は細い卓を挟んだ二つの平行な面に組まれ、正面向きと横向きの人物が微妙な対称をなす。なめらかで明るい肌は、1620年代末のテル・ブリュッヘンの絵を思わせる。色数は抑えられ、夜の情景の絵に近い。X線写真と顔料の分析から、画家はキンベル美術館の版の構図から出発し、女中の胴着を赤から暗い青緑に描き替え、若者をほかの三人から引き離して、キアロスクーロを強めたことがわかった。
来歴
所蔵館によれば、パリの不明の収集にあったものを、1926年頃にテニス選手で収集家のピエール・ランドリーが手に入れた。ラ・トゥールの署名のある昼の情景の絵として初めて見つかった作品で、1931年に美術史家ヘルマン・フォスが画家の昼の作品群をまとめ直す出発点となり、1934年にはパリのオランジュリー美術館の「現実の画家たち」展に並んだ。1972年に館がランドリーから購入した。所蔵番号は RF 1972 8。現在はシュリー翼912室に展示され、2005年には東京の国立西洋美術館のラ・トゥール展にも出品された。
意義
所蔵館によれば、二つの《いかさま師》の年代は研究者によって大きく割れ、ブラントは1616〜1625年頃、テュイリエはルーヴルの版を1639〜1640年頃とした。科学的な調査は、ルーヴルの版がキンベルの版より後であることを示している。日本語版ウィキペディアによれば、主題の先例はカラヴァッジョの《トランプ詐欺師》にあり、世間知らずの若者が悪賢い大人に負けるという教訓が受け継がれている。