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《ヴィーナスの誕生》

The Birth of Venus
《ヴィーナスの誕生》ウィリアム・アドルフ・ブグロー
Wikimedia Commons / オルセー美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
ウィリアム・アドルフ・ブグロー
制作年
1879年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
300 × 215 cm

波間に浮かぶ大きな帆立貝の上に裸の女神が立ち、両腕を上げて長い髪をかき上げる。まわりの海ではニンフや男たちが法螺貝を吹いて迎え、空には翼のある幼児たちが群れをなして舞う。

概要

《ヴィーナスの誕生》(仏: Naissance de Vénus)は、ウィリアム・アドルフ・ブグローが1879年に描いた油彩画である。縦300センチ、横215センチのキャンバスで、パリのオルセー美術館が所蔵する。海の泡から生まれた愛と美の女神ヴィーナスが、貝の上に立って姿を現す場面を描く。同じ年のサロンに出品され、所蔵館によれば、国が画家から買い上げた。筆跡を残さない仕上げと理想化された人体によって、19世紀フランスのアカデミック美術を代表する一点に数えられる。

画面の読み解き

画面の中央で、波間に浮かぶ大きな白い帆立貝の上に、裸のヴィーナスが立つ。両腕を頭の上に上げて腿まで届く長い髪をかき上げ、首をかしげて目を伏せる。片脚に重心をかけた体は、ゆるやかなS字の曲線を描く。まわりの海では、髭の男に抱きかかえられたニンフや、女神を指さしながら見上げるニンフ、葉の冠をかぶった女が女神を迎え、たくましい男たちが大きな法螺貝を吹き鳴らす。右下では、2人の幼児が黒いイルカにまたがり、赤い紐を手にしている。空には翼のある幼児たちが群れをなして舞い、弓や矢を掲げる者もいる。左下の隅には「W-BOUGUEREAU-1879」の署名がある。

技法・様式

ギリシャの詩人ヘシオドスは『神統記』で、女神が海の泡から生まれ、キュテラ島を経てキュプロス島に上がったと語る。ブグローはこの神話を、高さ3メートルの画面いっぱいに多くの人物を配した神話画に仕立てた。肌は筆跡を残さずなめらかに塗り重ねられ、輪郭はくっきりと閉じられている。こうした磨き上げた仕上げは、アカデミック美術の画家たちが求めたものの典型である。所蔵館は、美術の流れを紹介する短い映像のシリーズで、アカデミスム(アカデミック美術)を取り上げる回の代表作に本作を掲げている。同じ館には、16年前の1863年のサロンでナポレオン3世が買い上げたアレクサンドル・カバネルの《ヴィーナスの誕生》もある。カバネルの女神が波の上に横たわるのに対し、本作の女神は立ち上がり、迎える者たちの中心に置かれている。

来歴

所蔵館によれば、本作は1879年、パリのシャンゼリゼ宮で開かれたフランス芸術家協会のサロンに、出品番号376で出された。同じ年に国が画家から買い上げ、存命の画家の作品を集めたリュクサンブール美術館に入る。1879年から1920年まで同館に置かれたのち、1920年からはナントの美術館に寄託され、1979年にオルセー美術館に移管された。所蔵番号RF 253。現在はオルセー美術館の1階第3室に展示されている。

意義

作家で批評家のジョリス=カルル・ユイスマンスは、1879年のサロン評で本作をまず取り上げ、「女神を頭から足まで眺めれば、空気の足りないゴム風船だ。筋肉も神経も血もない」と酷評し、菓子箱の多色刷りのような仕上げだとも書いた。ユイスマンスはこうした評論を1883年に評論集『近代芸術』にまとめた。所蔵館によれば、この本はカバネルとブグローを筆頭にアカデミックな画家たちを攻撃し、「独立派」と呼ばれた画家たちを擁護した。2017〜2018年にミュンヘンのクンストハレが開いた、オルセー美術館のサロン絵画の展覧会の解説によれば、本作は当時から俗悪で覗き趣味だと叱られ、その批判は美術史にも引き継がれて、女神ではなくピンナップ・ガールだとまで言われた。一方で本作は、1984年にパリのプティ・パレで開かれたブグローの回顧展をはじめ、国内外の展覧会にたびたび出品されてきた。2019〜2020年には所蔵館のユイスマンス展で、批評家が退けたアカデミック美術の代表として展示された。