《聖母を描く聖ルカ》
天蓋の下に座る聖母が、膝の幼子に乳を含ませる。向かいでは赤い衣の聖ルカがひざまずき、紙に聖母の姿を写す。二人の間の柱廊の向こうには庭と胸壁があり、川の流れる町並みを男女が見下ろす。
概要
《聖母を描く聖ルカ》は、ブリュッセルの画家ロヒール・ファン・デル・ウェイデンが1435年から1440年頃に描いた板絵で、ボストン美術館が所蔵する。館の記録では縦137.5センチ、横110.8センチ、板に油彩とテンペラで描かれている。館は、アメリカ合衆国にある北方ヨーロッパの絵画のなかで最も重要なものの一つとする。
画面の読み解き
館によれば、ルカは画家の組合の守護聖人だった。画面の左では、天蓋の下に座る聖母が幼子に乳を含ませ、右では赤い衣のルカがひざまずいて、その姿を紙に写している。館の解説によれば、ロヒールは周りの世界をそのまま写したのではなく、細部を操って込み入った象徴の体系をつくった。柱廊の外の囲まれた庭は聖母の純潔を、玉座の肘掛けに彫られたアダムとイヴは、人類を原罪から救うキリストと聖母の役割を表す。
技法・様式
館によれば、ロヒールはこの絵で、様式化された文様というゴシックの遺産と、新しい自然主義の感覚とを見事に結びつけた。聖ルカの顔立ちは、画家が自分の顔をもとにしたのかもしれないという。
来歴
館の来歴によれば、本作はおそらくブリュッセルの聖ギュデュル大聖堂の聖カタリナ礼拝堂のための注文で、この礼拝堂では町の画家組合が礼拝を行い、画家自身もそこに葬られた。1520年にブリュッセルに滞在したアルブレヒト・デューラーが見たのは、おそらくこの絵である。その後スペイン王フェリペ2世がエル・エスコリアル修道院に納め、1574年の目録に載るとみられる。19世紀にはスペイン王家の親王セバスティアン・ガブリエルの所有となり、1889年にニューヨークで売られて、ヘンリー・リー・ヒギンソンが購入した。1893年、ヒギンソン夫妻が館に寄贈した。いまは館の243A室に展示されている。
意義
画家の組合の礼拝堂に掛けられたとすれば、本作は画家たちが自らの守護聖人を仰ぐ絵だったことになる。同じ画家の作品には《十字架降架》や《最後の審判》がある。