《虹のある山の風景》
- 作者
- カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
- 制作年
- 1809–1810年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 69 × 102 cm
- 所蔵
- フォルクヴァンク美術館
- 時代
- 新古典・ロマン
- 流派
- ロマン主義
1809年から1810年にかけてフリードリヒが描いた風景画。夜の山なみに淡い虹が架かり、手前では帽子を置いた旅人が岩にもたれ、背を向けて谷を見つめる。人と自然の隔たりを描いた、ドイツ・ロマン主義の代表作である。
概要
《虹のある山の風景》(独: Gebirgslandschaft mit Regenbogen)は、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒが1809年から1810年にかけて描いた油彩画である。暗い山なみの上に淡い虹が架かり、手前の高みでは一人の旅人が岩にもたれて谷を見下ろす。フォルクヴァンク美術館が所蔵し、館は制作年を1809/10年としている。ロマン主義の風景画を代表する一点。
来歴
1810年、ヴァイマルのカール・アウグスト公が、ゲーテの仲立ちで《虹のある風景》とともに買い上げたとみられる。1924年にはまだヴァイマル美術コレクションの目録にあったが、第一次世界大戦後の革命政府がこれを売却した。1932年にはベルリンの画商パウル・カッシーラーの手にあり、同年から1938年まではエッセンのユダヤ人銀行家ゲオルク・ヒルシュラントの所蔵となる。1939年、ヒルシュラントはほかの23点とともに本作をフォルクヴァンク美術館へ売却することを強いられた。1950年に遺族へ返還され、遺族はゲオルク・ヒルシュラントの遺贈という形で、改めて同館に収めている。所蔵番号はG 46。
画面の読み解き
草の生えた山上の平地に、傾いた岩がある。旅人は白いズボンに赤い上着という町の人の身なりで、脱いだシルクハットを傍らに置き、杖にもたれて谷を見つめる。茶と灰に沈んだ画面のなかで、この赤と白だけが強く目を引く。両脇の木立が中央へ傾いて視線を導き、足もとの谷は霧に覆われて底が見えない。奥には黒いシルエットの山なみが重なり、中央に円錐形の高い峰が立つ。空は厚い雲に覆われ、雲の切れ間からわずかに月の光がもれる。峰の上に架かる虹は灰色と黄色だけの淡いもので、通常の太陽の虹とは見え方が異なる。
技法・様式
キャンバスに油彩で、大きさは69×102センチ。中央の峰の頂は画面の対角線の交点にあり、波打つ地平線は画面を黄金比に分ける。虹の弧には画面下部の線がゆるやかに応じ、前景・中景・遠景が一つの楕円に収まる。背を向けて景色を眺める人物、いわゆるリュッケンフィグーアは、見る者を旅人と同じ視点に立たせる装置である。遠景の円錐形の峰は、1808年の旅で写生したボヘミアのルージョフスキー・ヴルフ(ローゼンベルク)で、《雲海の上の旅人》にも用いられた。実景の素描を組み替えて架空の風景を構成する、画家の常のやり方による。
意義
解釈は分かれている。ヘルムート・ベルシュ=ズーパンは、旅人が寄りかかる岩を信仰の象徴、遠い峰を神の象徴、霧の谷を通り抜けるべき死の谷と読み、脱いだ帽子を謙譲のしるし、虹を平安の徴とみた。フーベルトゥス・ガスナーは、昼と夜という相反する光を一枚の画面に収める技術的な実験として捉える。虹を旧約聖書のノアの契約の徴と見る読み方も古くからある。画面の時刻についても夜とする説が有力だが定まらず、制作年も長く議論され、1940年にクルト・カール・エーベルラインが示した1809年説が受け入れられてきた。