《薔薇垣の聖母》
- 作者
- シュテファン・ロッホナー
- 制作年
- 1440–1442年
- 素材
- 板(オーク材) / テンペラ / 油絵具
- 寸法
- 50.5 × 40 cm
- 所蔵
- ヴァルラフ・リヒャルツ美術館 (改修で休館中(2026年8月3日〜2028年末))
- 時代
- ルネサンス
- 流派
- ゴシック
金地を背に、薔薇の這う垣の前で、冠をかぶり青い外套をまとった聖母が草の上に座り、林檎を持つ幼子を膝に抱く。天使たちが楽器を奏で、果物を差し出し、上では父なる神と鳩が見下ろす。
概要
《薔薇垣の聖母》は、15世紀半ばのケルンで活躍した画家シュテファン・ロッホナーが1440年から1442年頃に描いた板絵で、ケルンのヴァルラフ・リヒャルツ美術館が所蔵する。館の記録では、オーク材の板に描かれ、縦50.5センチ、横40センチ。所蔵番号はWRM 0067。館は本作を、ケルンで最も名高い絵であり、世界に知られた中世ケルン絵画の看板ともいえる作品として、「ケルンのモナ・リザ」とも呼ばれると紹介し、数えきれないほど複製されてきたとする。
画面の読み解き
画面では、金地を背に、薔薇が枝を伸ばし花を咲かせる低い垣を後ろにして、聖母マリアが草の上に座る。頭には花と宝石の冠をのせ、深い青の外套をまとい、膝の上の幼子イエスは手に林檎を持つ。画面の上の左右では、二人の天使が赤い錦の幕を引き開け、中央には父なる神が現れて、その下に聖霊の鳩が舞う。聖母のまわりには小さな天使たちが集まり、左の天使たちは手を合わせて祈り、右の天使は鉢に盛った果物を幼子へ差し出す。手前の四人の天使は、リュートや小型のオルガン、竪琴を奏でている。館の解説によれば、聖母の足もとの花から、天使の楽器、胸の貴重なブローチ、天の冠、金地の飾りに至る数多くの細部は、どんな複製でも味わえず、原画の前でしか味わえない。
技法・様式
館によれば、これらの細部はどれも、ただの飾りではない。聖母の光輪に押し込まれた文様は、月の満ち欠けの周期を簡略に表したもので、中世の天文学と神学の結びつきを示している。胸の小さなブローチには一角獣を抱く乙女が表され、主画面を象徴的に繰り返す。二人は、聖母と幼子と同じようなしぐさで結ばれており、キリストと教会の「神秘の婚姻」をほのめかしている。さらに、数学と音楽、天の建築のつながりにもとづく巧みな画面の幾何学によって、つつましい薔薇の垣が楽園であることを示している。館は、これらの要素が複雑な時計の仕掛けのように噛み合って、きわめて重層的な神学の主張を生み出していると述べる。
来歴
館の記録によれば、本作は1848年に F. J. フォン・ヘルヴェークの遺贈によって館に入った。ロッホナーの作品にはどれも署名が無く、本作も例外ではない。館は2013年に、ケルン専門大学の修復・保存学研究所と共同の研究にもとづいて本作の画材と技法を再現し、その制作の工程を映像に記録した。館は改修工事のため2026年8月3日から2028年末まで休館しており、その間、作品はほかの場所でも展示されない。
意義
館の解説は、ヴァルター・ベンヤミンが1935年に、大量の複製によって芸術作品はその「アウラ」を失うと論じたことを引き、インターネットの時代に、無数に複製されてきた本作がなおアウラを保っているのはなぜかと問う。愛らしい全体の印象の背後に、画家は救済の歴史の諸段階を見事に凝縮した壮大な構想を隠しており、それによって本作は人間の時間の尺度からも、複製の技術からも逃れている、と館は答える。同じ主題の作品には、のちにコルマールで描かれた、マルティン・ショーンガウアーの等身大の《薔薇垣の聖母》がある。