《ガニュメデスの略奪》
- 作者
- コレッジョ
- 制作年
- 1530年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 163.5 × 72 cm
- 所蔵
- ウィーン美術史美術館
- 時代
- ルネサンス
黒い大きな鷲が少年を抱えて空へ舞い上がる。少年はこちらを振り向き、鷲は舌でその腕をなめる。風にあおられた薄紅色の衣がひるがえり、地上では白い犬が驚いたように空を見上げ、遠くには青い山並みが広がる。
概要
《ガニュメデスの略奪》(独: Entführung des Ganymed)は、イタリアの画家コレッジョが1530年ごろに描いた油彩画である。縦163.5センチ、横72センチの縦に長いキャンバスで、ウィーン美術史美術館が所蔵する。神々の王ユピテルの恋を主題とする4点の神話画の連作の一つで、同館の《ユピテルとイオ》と対をなす。
画面の読み解き
館の名品ガイド(カエキリア・ビショフ執筆)によれば、トロイアの建国者トロスの子ガニュメデスの伝説は、ホメロスが「並ぶ者なく美しい若者」の恋人をはじめてゼウスと明言して以来、男性同士の愛の性格を帯びてきた。神は鷲に姿を変えて若者をさらい、酌人としてオリュンポスへ連れて行った。若者は不死を与えられ、最後には星座の水瓶座となった。鷲が若者を抱えて軽々と空へ舞い上がる姿を、どうすれば説得力をもって描けるかは、画家にとって難題だった。画面では、驚いて上を見上げる牧羊犬が動きの始まりとなり、見る者の視線は木の切り株を越えて空へ導かれる。こちらを振り向く若者の頭がその動きを受け止め、鷲は未来の恋人の腕を嬉しげに舌でなめる。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。ビショフによれば、コレッジョは対作品の《ユピテルとイオ》と同じく細長い縦の画面を選び、構図に上へ向かう性格を与えた。そのうえで群像を四方からしっかりとつなぎとめている。鷲の翼は画面の端で切られ、左の木が若者を下から「支え」、若者のほっそりした脚は背景のなだらかな丘の連なりに「載って」いる。気流にあおられてほどけた衣だけが群像の静かな均衡を破り、空を舞う印象をいっそう強めている。
来歴
ボルゲーゼ美術館の《ダナエ》の解説によれば、連作は《ダナエ》、ベルリン絵画館の《レダと白鳥》、《ユピテルとイオ》と本作の4点からなり、マントヴァ公フェデリーコ2世・ゴンザーガから皇帝カール5世に贈られた。贈られたのは1530年のボローニャか、より可能性が高いのは1532年11月のマントヴァとされる。館の来歴によれば、本作は1585年までスペインの宮廷人アントニオ・ペレスの収集にあり、その没収後に国王フェリペ2世のものとなって、1605年に皇帝ルドルフ2世が手に入れた。所蔵番号はGG 276。
意義
ボルゲーゼ美術館によれば、連作は神々の父ユピテルの姿を借りて皇帝その人をほのめかす、きわめて洗練された教養ある贈り物で、ユピテルのしるしである鷲は皇帝の紋章とも重なる。一方で研究者フェルハイエンは、公がもともと自分のために、マントヴァのパラッツォ・テの「オウィディウスの間」に飾るつもりで連作を注文したとみる。最初の2点、《ユピテルとイオ》と本作を皇帝が目にして受け取り、残りもまもなく届けると約束されて、連作は皇帝に譲られたという。