《横たわる裸の女》
赤褐色の幕が垂れる部屋で、黒髪の女性が両腕を頭の後ろに回し、寝台に身を横たえて眠る。白い靴下と青い靴だけを身につけ、左には窓の外の茂みと、薄紅にけむる空がのぞく。
概要
《横たわる裸の女》(原題 Femme nue couchée)は、フランスの画家ギュスターヴ・クールベが1862年に描いた油彩の横たわる裸婦で、現在は個人が所蔵している。2015年11月にニューヨークのクリスティーズの競売に出たときの作品記録によれば、キャンバスに油彩で、縦74.9センチ、横97.1センチ。右下に「..62 Gustave. Courbet.」の署名と年記がある。かつては《眠り》《昼寝》《眠る女》などの題でも呼ばれた。第二次世界大戦中に旧所有者のもとから失われ、2005年に相続人へ返還された作品として知られる。
画面の読み解き
赤褐色の重い幕が寝台の上に垂れ、その下で黒髪の女性が両腕を頭の後ろに回して身を横たえ、目を閉じている。白い布が肩のあたりに広がり、脚には白い靴下と青い靴だけをつけている。左では幕がたくし上げられ、窓の外に茂みと、薄紅色を帯びた曇り空がのぞく。クリスティーズの解説によれば、モデルはおそらくレオンティーヌ・ルノードで、半ば影に沈む顔が深い静けさを強め、片方の靴下は留め具から外れている。たくし上げた赤い幕と窓の外の景色の象徴は、それほど分かりにくいものではないという。
技法・様式
クリスティーズの解説が引く、2008年のクールベ展の図録でのロランス・デ・カールの言葉によれば、画家はここで、ルネサンスに確立した横たわる女性の裸体という古典的な主題を新たに解釈しており、これほど系譜を意識させる作品は少ない。ティツィアーノの《ウルビーノのヴィーナス》やジョルジョーネの《眠れるヴィーナス》などの名作を踏まえ、ゴヤの《裸のマハ》にも連なる。解説は、同じ年のアングル《トルコ風呂》のような東方の幻想ではなく、肉体と量感によって目の前の実在の人物の気配を追い求めた点に、クールベのねらいを見ている。
来歴
クリスティーズの作品記録によれば、本作はサントの収集家エティエンヌ・ボードリーのもとに1878年まであり、1899年にパリで競売にかけられた。その後、ヴァグラム公、ブダペストのモール・リポト・ヘルツォーク男爵、マルツェル・フォン・ネメシュの手を経て、1913年の競売ののちベルリンのブルーノ・カッシーラーが買い、1927年までにブダペストのフェレンツ・ハトヴァニ男爵の収集に入った。記録では、1944年に国家社会主義者に没収され、2005年にハトヴァニの相続人へ返還されたとされる。その後まもなく現在の所有者が取得し、2015年11月9日の競売で1,528万5,000ドルで落札された。
意義
クリスティーズの解説によれば、本作は1850年代初めから1860年代末にかけてクールベが描いた一連の裸婦のなかで重要な位置を占め、男性のまなざしに応えつつそれに挑み、1860年代のフランス絵画に突破口を開いた。同時期の作には、《オウムと女》(1866年、メトロポリタン美術館)などがある。本作は1929年のパリ・プティ・パレのクールベ展にも出品され、失われたのちは、2007年から2008年にパリのグラン・パレ、ニューヨークのメトロポリタン美術館、モンペリエのファーブル美術館を巡ったクールベ展で、久しぶりに公開された。