《夕暮れ》
淡い夕空に細い三日月がかかる。暗い色の薄布を風にふくらませ、裸の女性が海の上に浮かぶように立つ。顔を伏せて肩にのせた手に頬を寄せ、爪先だけが波に触れて水面に映る。左手には岩、水平線には桃色の雲。
概要
《夕暮れ》(仏: Le Crépuscule)は、ウィリアム・アドルフ・ブグローが1882年に描いた油彩画である。縦207センチ、横108センチの縦長の大きなキャンバスで、キューバのハバナ国立美術館が所蔵する。一日の暮れ方を裸の女性の姿で表した寓意画で、1882年のサロンに出品された。英語版ウィキペディアによれば、一日の四つの時を描いた連作の一点で、ほかに《夜明け》、《夜》(1883年)、《昼》(1884年)がある。
画面の読み解き
縦長の画面に、裸の女性がほぼ等身大で立つ。地面はなく、女性は夕暮れの海の上に浮かび、伸ばした足の爪先だけが波に触れて、水面にかすかな影を落とす。顔は伏せられ、肩のあたりに寄せた左手に頬と唇をあずけて、まどろむようにも見える。暗い紫がかった薄布が背後で風にふくらみ、腰から脚へ巻きついて画面の下へ流れる。左上の淡い空には細い三日月がかかり、水平線のあたりには桃色に染まる雲がたなびく。画面左には暗い岩が海に張り出す。所蔵館によれば、左下に「W.Bouguereau/1882」の署名と年記がある。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。肌は筆の跡を残さない滑らかな仕上げで、明るい肌と、光を透かす暗い布との対比が際立つ。人物を画面の高さいっぱいに立たせ、背景を空と海だけに絞ることで、重さを感じさせない浮遊感が生まれている。所蔵館によれば、本作はおそらく一組の作品の一部で、寸法も描き方も《夜明け》とよく似ている。白い布をまとい花に顔を寄せる《夜明け》に対し、本作は暗い布と三日月で日の終わりを示し、伏せた顔で眠りへ向かう時を表している。
来歴
オルセー美術館のサロン出品作のデータベースによれば、本作は1882年のパリのサロンに、番号341、題《黄昏(Le crépuscule)》として出品された。その時点の所有者は画商のクネードラー社と記録されている。記録には、ブグローが学士院会員で、褒賞の審査の対象外(オール・コンクール)として出品したことも記されている。現在はハバナ国立美術館の所蔵で、所蔵番号は91-186。
意義
所蔵館は、ブグローを反アカデミズムの革新に敵対した画家として紹介している。印象派が独自の展覧会を重ねていた1880年代初め、ブグローはアカデミック美術の頂点にあり、理想化された裸婦による寓意を、サロンの大画面で繰り返し示した。本作は、四点が呼応しあう連作の一点として、その時期の画家の理想の美をよく伝えている。