《夜明け》
明け方の空を背に、裸の女性が水面すれすれに立ち、岸辺のカラーの花へ顔を寄せている。薄い白布が頭上で弧を描き、足もとの暗い水にわずかな映り込みが見える。夜明けを人の姿で表した一点である。
概要
《夜明け》(仏: L'Aurore)は、ウィリアム・アドルフ・ブグローが1881年に描いた油彩画である。縦214.9センチ、横107センチ。アメリカ・アラバマ州のバーミングハム美術館(アラバマ)が所蔵する。一日の移ろいを女性の姿で表す寓意画で、画家が1881年から1884年にかけて手がけた「一日の四つの時」の連作の第一作にあたる。
画面の読み解き
縦長の画面いっぱいに、裸の女性が立つ。体重はほとんどかかっておらず、左足の爪先だけが暗い水面に触れ、そこに淡い映り込みができている。顔は左へかしげられ、岸から伸びる白いカラーの花に鼻先を寄せる。赤みを帯びた長い髪が肩から背へ流れる。薄い白布は右手に高く掲げられて頭上で弧を描き、腰から脚へ巻きついて画面の下方へ落ちる。左下には大ぶりのカラーの葉が茂り、その向こうに低い地平と、白から淡い青へ移る明け方の空が広がる。画面左下に「W·BOVGVEREAV·1881」の署名がある。
技法・様式
肌は筆の跡を残さないほど滑らかに仕上げられ、布は光を透かす薄さまで描き分けられる。アカデミック美術が理想とした仕上げの水準をそのまま示す画面である。人物を画面の高さいっぱいに立たせ、背景を空と水だけに絞ったことで、重さのない浮遊した印象が生まれる。花に顔を寄せるしぐさと、水に触れるか触れないかの爪先が、夜と朝の境目という主題を一つの動作にまとめている。
来歴
「一日の四つの時」の連作は、本作に続いて《黄昏》(1882年)、《夜》(1883年)、《昼》(1884年)と描き継がれた。4点は線と形、色の呼応によって一組をなす。本作はバーミングハム美術館が所蔵し、所蔵番号は2005.111。英語では「百合を持つ少女(Girl with a Lily)」の題でも呼ばれてきた。
意義
1880年代のブグローが目指した理想の美と優美さを、もっともよく示す一群の出発点である。20世紀に入るとアカデミック美術全体とともに評価を失ったが、近年の見直しのなかで再び注目を集めている。同館も、その技術の高さと、印象派の台頭以後に沈んだ評価、そして近年の関心の回復という道筋のなかに本作を置いている。