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《嫉妬に燃えるキルケ》

《嫉妬に燃えるキルケ》ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
Wikimedia Commons / 南オーストラリア美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
制作年
1892年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
180.7 × 87.4 cm

青緑の海の上に、濃い緑の衣をまとった女が裸足で立ち、両手で浅い鉢を掲げる。鉢からは鮮やかな緑の液が一筋に流れ落ち、足もとの水面に泡が広がる。背後には茶色の岩場と木立がそびえる。

概要

《嫉妬に燃えるキルケ》(ラテン語: Circe Invidiosa)は、イギリスの画家ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスが1892年に描いた油彩画である。縦180.7センチ、横87.4センチの縦に長いキャンバスで、南オーストラリア美術館が所蔵する。古代ローマの詩人オウィディウスが語る魔女キルケの物語に取材した神話画で、館は収蔵品の中で最も愛され、複製されてきた作品の一つとする。

画面の読み解き

館の解説によれば、本作は、恋に破れた魔女キルケが海に毒を注ぐ姿を描く。オウィディウスの『変身物語』第14巻では、海の神グラウコスが、恋するニンフのスキュラの心をつかむ薬をキルケに求める。だがグラウコスに心を寄せたキルケは拒まれ、嫉妬から、スキュラが身を休める入り江の水に毒を流して、彼女を怪物に変えてしまう。画面のキルケは肩をあらわにし、目玉のような模様を散らした濃い緑の衣をまとって、静かな水面の上に裸足で立ち、眉を寄せて鉢の中を見下ろす。両手に掲げた浅い鉢から、鮮やかな緑の毒液が細い一筋となって海へ落ち、足もとに泡が広がる。その左右には、怪物のひれや尾のような暗い影がのぞき、背後には茶色の岩場と木立がそびえる。

技法・様式

キャンバスに油彩で描かれる。館によれば、引き伸ばされたような縦長の画面の比率と、ほとんど病的なまでの青緑の海が、薄気味の悪い異界の気配を生み、描かれた世界が私たちの住む世界ではないことを、見る者にはっきりと悟らせる。緑の毒液は画面でいちばん明るい色で、鉢から足もとまで縦にまっすぐ走り、細長い画面をつらぬく。右下には「J.W. Waterhouse./ 1892.」の署名と年記がある。

来歴

館によれば、本作は1892年、南オーストラリア州政府の補助金によって画家から買い取られた。購入は、フレデリック・レイトン、エドワード・ポインター、ヒューバート・フォン・ハーコマーからなる助言委員会の勧めによるもので、作品は1893年2月にサウサンプトンを発った汽船オリエント号でアデレードへ送られた。所蔵番号は0.106。同館は1883年に《皇帝ホノリウスのお気に入り》を買い、ウォーターハウスの作品を世界で初めて公的機関に収めた館でもある。

意義

館は、ウォーターハウスがラファエル前派の多くの信条に従いつつも、古代ギリシア・ローマの神話から複雑な教訓の物語を描いた「オリンピアンズ」と呼ばれる画家たちの緩やかな集まりに近いとする。今日では館で最も親しまれる作品の一つだが、購入された当時の評判は分かれ、1893年の『デイリー・テレグラフ』紙は、本作が「ふつうの見物人を引きつけるよりむしろ遠ざける」と評した。ウォーターハウスは前年の1891年にも、同じキルケを主人公とする《オデュッセウスに杯を差し出すキルケ》を描いている。