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《アルプスを越えるボナパルト》

Bonaparte franchissant les Alpes
《アルプスを越えるボナパルト》ポール・ドラローシュ
Wikimedia Commons / ルーヴル美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
ポール・ドラローシュ
制作年
1848年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
289 × 222 cm
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雪の岩壁が迫る山道で、黒い二角帽に灰色の外套のボナパルトが、ラバの背で右手を胸もとに差し入れ、思いつめた目でこちらを見据える。杖を持つ地元の案内人が手綱を引き、左の後方では兵士たちが吹雪に身をかがめる。

概要

《アルプスを越えるボナパルト》(仏: Bonaparte franchissant les Alpes)は、フランスの画家ポール・ドラローシュが1848年に描いた油彩画である。縦289センチ、横222センチのキャンバスで、パリのルーヴル美術館が所蔵する。ルーヴル=ランス美術館によれば、描かれているのは第2次イタリア遠征の一場面である。1799年の政変で第一統領となったボナパルトは、北イタリアのオーストリア軍に向かうため、1800年5月14日から23日にかけて4万の兵とともにアルプスのグラン・サン=ベルナール峠を越えた。これは画家がナポレオンにかかわる出来事を描いた3作目の歴史画で、左下に「Paul Delaroche. 1848.」の署名と年記がある。

画面の読み解き

ルーヴル=ランス美術館によれば、黒い二角帽をかぶり灰色の外套に右手を差し入れたボナパルトは、物思いに沈んだ姿で、ただのラバに乗って進む。戦いも騎兵の突撃も描かず、戦いの前の険しい峠越えと、一人の男の孤独を強調している。熱に浮かされたような表情と弓なりの体は、作戦を練る第一統領の不安な気質と、背負う運命の重さを示すという。右で手綱を引く案内人は、1845年に出たアドルフ・ティエールの『統領政府と帝政の歴史』の記述に従ったもので、ピエール=ニコラ・ドルサズという実在の人物である。ナポレオン財団によれば、途中の隘路でラバが石に足を滑らせ、案内人がしっかり押さえなければ落ちていたところで、ドルサズはのちにその働きに報いられた。軍服は実際に着ていた騎馬猟兵の大佐のもので、若い第一統領の顔はやや丸く、髪は短く描かれ、ささやかな時代のずれによって、のちの皇帝ナポレオンの姿に重ねられている。

技法・様式

ルーヴル=ランス美術館は、1800年にジャック=ルイ・ダヴィッドが描いた同じ場面の絵と本作を対比する。ダヴィッドは将軍の軍服の英雄を「荒馬の上で落ち着いた」姿で描き、ギリシア・ローマの彫像を手本に顔立ちを理想化して、ほとんど神のような像に仕上げた。これに対してドラローシュは、出来事をありのままの姿で表そうとした。同館は、ドラローシュを、劇的な感覚をそなえた記録風の「歴史の逸話」の絵を始めた画家とし、本作では、軍の公報の挿絵のように、民衆的な図像を歴史画の格にまで高めたとする。

来歴

所蔵館の来歴によれば、本作は1848年にパリで描かれ、同年秋にニューヨークのナショナル・アカデミー・オブ・デザインで展示されたのち、アメリカ各地とハバナを巡回した。1850年4月までにウッドベリー・ラングドンが買い、1852年にロンドンの画商コルナギ、1853年にジョン・ネイラーの手に渡って、ウェールズのレイトン・ホールで一族に伝わった。のち競売を経てアメリカに渡り、1973年にロバート・レイモンド・バークハウザー夫妻が買い取って、1982年にルーヴル美術館に寄贈した。所蔵番号はRF 1982-75で、ドゥノン翼の第701室に展示されている。文化省の目録によれば、細部の異なる1850年の2作目がリヴァプールのウォーカー美術館にある。

意義

ルーヴル=ランス美術館は、ダヴィッドの作と本作の違いに、18世紀から受け継いだ寓意の言葉を捨て、出来事をじかに表す方向へ向かったナポレオン神話の変化を見る。19世紀が進むにつれ、皇帝を英雄に仕立てる傾向は、心引かれる細部をそなえた民衆的な語りへと移っていった。ドラローシュはこの主題で、ルイ=フィリップの政府がすすめたナポレオン伝説の称揚に応えた。本作は英語圏の7つの収集を経ており、画家は油彩で5点の別の版を描き、版画にもして、構図は広く複製されたという。