《キリストの降臨と勝利》
- 作者
- ハンス・メムリンク
- 制作年
- 1480年
- 素材
- 板(オーク材) / 油絵具
- 寸法
- 81.3 × 189.2 cm
- 所蔵
- アルテ・ピナコテーク (ヴィッテルスバッハ家補償基金の所有(1923年から))
- 時代
- ルネサンス
- 流派
- 初期フランドル派
横に長い一枚の風景に、小さな場面が数多く散らばる。中央では三博士が山の上で星を見つけて旅立ち、手前の厩で幼子を拝む。左には降誕と嬰児虐殺、右には復活と昇天が描かれ、下の両端に寄進者が祈る。
概要
《キリストの降臨と勝利》は、ブルッヘの画家ハンス・メムリンクが1480年に描いた油彩の板絵で、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークで展示されている。館の記録では縦81.3センチ、横189.2センチのオーク材の板で、所蔵番号はWAF 668。1923年からヴィッテルスバッハ家補償基金の所有である。館の題は《マリアの七つの喜び》だが、館の音声ガイドが言うとおり、描かれている出来事は七つよりはるかに多い。
画面の読み解き
館の音声ガイドによれば、画面の中央には東方三博士の旅が描かれる。旅は奥の地平線の三つの山から始まり、それぞれの山の上に立つ王がベツレヘムの星を見つける。王たちは星に導かれて左の山のふもとの橋の前で落ち合い、まずエルサレムのヘロデ王の宮廷に向かう。赤い衣の王は新しい王の誕生の知らせを熱心に聞く。三博士はさらに進んで手前のベツレヘムの厩にたどり着き、幼子を拝む。帰りはエルサレムとヘロデを避けて海路をとり、右奥では三隻の船が朝日に向かって進み、新しい信仰を世界へ運んでいく。画面の左側は聖母の生涯で、左奥に受胎告知、その手前に羊飼いへのお告げ、前景に降誕がある。右奥では嬰児虐殺が描かれ、エジプトへ逃れる聖家族の後ろでは、一夜で麦が実って追っ手を迷わせた「麦の奇跡」が起こる。右側はキリストの勝利の物語で、手前のアーチの左で番兵が眠る墓から復活し、マグダラのマリアや聖母の前に現れる。アーチの中では聖霊が降る聖霊降臨が描かれ、いちばん奥ではキリストの昇天と聖母の被昇天が見える。
技法・様式
館の音声ガイドによれば、人物にあふれ多くの場面を並べたこの描き方は、メムリンクを素朴な語り手と思わせるかもしれない。しかし絵の根底には一つの中心となる主題がある。描かれているのは、神の霊が世に送られ、信仰によって広まっていくことである。異例なほど横に細長いこの祭壇画の前にひざまずいた人は、信仰と神のはたらきが世界をあまねく覆う意味をはっきりと目にした。
来歴
館によれば、本作は1480年、ピーテル・ブルティンクとその妻カタレイネ・ファン・ライエベーケが、ブルッヘの聖母教会にある皮なめし職人組合の礼拝堂に寄進した。夫妻の姿は画面の下の左右に見える。館の音声ガイドは、厩の横にひざまずく黒い服の男たちを、寄進者のブルッヘの商人とその息子としている。本作は1827年にボワスレー・コレクションから入り、1923年からヴィッテルスバッハ家補償基金の所有となっている。
意義
館によれば、メムリンクはロヒール・ファン・デル・ウェイデンの工房で働いたのち、1465年からブルッヘで活動が記録され、まもなく町の第一の画家となった。ブルッヘの裕福な市民や、ヨーロッパの大商会の代表として町に住んだ外国の商人たちが、彼に重要な注文を寄せた。本作は、そうした町の市民の寄進による祭壇画の一つである。同じ画家の作品には、メトロポリタン美術館の《受胎告知》や、グダニスク国立美術館の《最後の審判》がある。