《オデュッセウスとセイレーンたち》
- 作者
- ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
- 制作年
- 1891年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 100.6 × 202 cm
- 所蔵
- ヴィクトリア国立美術館 (所蔵番号p.396.3-1)
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
- 流派
- ラファエル前派
切り立つ岩壁のあいだの狭い海峡を、赤い帆の船が進む。白い衣のオデュッセウスは帆柱に縛りつけられ、漕ぎ手たちは耳をふさいで櫂をこぐ。その周りを、女の顔と猛禽の翼を持つセイレーンたちが旋回し、船べりにまで舞い降りてくる。
概要
《オデュッセウスとセイレーンたち》(英: Ulysses and the Sirens)は、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスが1891年に描いた油彩の神話画である。縦100.6センチ、横202センチの横長のキャンバスで、メルボルンのヴィクトリア国立美術館が所蔵する。古代ギリシアの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の一場面を描く。所蔵館によれば、魔女キルケの忠告を受けたオデュッセウス(ラテン語名ウリクセス、英語名ユリシーズ)は、歌声で船乗りを破滅に誘うセイレーンの歌を聴くため、自分を帆柱に縛らせ、仲間の耳を蜜蝋でふさがせて、その海を無事に通り抜けた。
画面の読み解き
切り立った岩壁にはさまれた狭い海峡を、舳先の高く反った船が進む。白い衣のオデュッセウスは帆柱に縛りつけられ、頭上のセイレーンを見上げる。漕ぎ手たちは顔を伏せて櫂をこぎ、甲板には丸い盾が並ぶ。所蔵館によれば、ウォーターハウスはセイレーンを、鳥の体に美しい女の頭を持つ姿で描いた。セイレーンの群れが猛禽の翼を広げて船を取り巻き、一羽は甲板の漕ぎ手のすぐ脇にまで舞い降りている。画面右下に「J. W. WATERHOUSE. / 1891」の署名と年記がある。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館の解説によれば、ホメロスはセイレーンの姿を描写していないため、ウォーターハウスは大英博物館にある古代ギリシアの壺に描かれた同じ物語の図を手本にした。翼と鉤爪を持ち人の顔をした鳥の姿は、人魚のようなニンフとしてのセイレーンに慣れていたヴィクトリア朝の観衆を驚かせた。同館の紀要の論考によれば、当時の評者のなかには、ホメロスの二人ではなく七羽を描いたと指摘しつつ想像力と考古学の結びつきを称える者がいた一方、歌の魅惑より猛禽の獰猛さが目立ち、セイレーンというよりハルピュイアだと批判する者もいた。
来歴
所蔵館によれば、本作は1891年にロンドンのロイヤル・アカデミー展に出品され、同年6月、画家から直接ヴィクトリア国立美術館のために購入された。同館の紀要によれば、購入したのはロンドンで館の顧問を務めた画家ヒューバート・フォン・ハーコマーで、価格は1200ポンドだった。所蔵番号はp.396.3-1。
意義
所蔵館の解説によれば、ロイヤル・アカデミーで展示されたとき、本作は多くの批評家に称賛され、批評家M. H. スピールマンは「驚くべき勝利」「色彩の祝祭」と評した。これは公立の美術館が収蔵した2点目のウォーターハウスの作品だった。一方、メルボルンでは、伝説の大胆な解釈と高額な購入費をめぐって新聞で批判が起こった。同館の紀要は、男を圧倒する力を持つ「宿命の女」としての女性像の表れとして本作を読んでいる。同じ年に描かれた《オデュッセウスに杯を差し出すキルケ》とともに、画家が『オデュッセイア』に取材した作品である。