《月を眺める二人の男》
- 作者
- カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
- 制作年
- 1819–1820年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 35 × 44.5 cm
- 所蔵
- ノイエ・マイスター絵画館
- 時代
- 新古典・ロマン
- 流派
- ロマン主義
夜の森の岩の道で、二人の男が寄り添って立ち止まり、細い三日月と宵の明星を見つめる。一人は連れの肩に腕をかけ、右では枯れた樫が身をよじって枝を広げ、左の常緑のトウヒとともに二人を囲む。
概要
《月を眺める二人の男》(独: Zwei Männer in Betrachtung des Mondes)は、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒが1819年から1820年にかけて描いた油彩画である。縦35センチ、横44.5センチの小さなキャンバスで、ドレスデンのアルベルティヌムにあるノイエ・マイスター絵画館が所蔵する。月夜の森で三日月を見つめる二人の男を、背後から描く。所蔵館は本作を、ロマン主義の自然観の典型でドイツ・ロマン主義を象徴する絵とし、画家の作品の中でも中心的な位置を占めるとしている。ロマン主義を代表する一点である。
画面の読み解き
夜の森の中、岩の多い道を登った先で、二人の男が寄り添って立ち止まり、画面の中央に浮かぶ細い三日月を見つめている。三日月の右には宵の明星が光る。杖を手にした右の男はベレー帽に外套、左の細身の男は帽子に上着の姿で、連れの肩に腕をかける。右では枯れた樫が大きく身をよじって枝を広げ、その枝先は左のトウヒの梢に届く。前景には切り株と、道に横たわる大きな折れ枝がある。画面は錆色と茶色の靄に包まれてほぼ単色で、二人の衣の青緑だけが別の色として加わる。
技法・様式
所蔵館の解説によれば、画家は月を画面の中心に据え、ほかの要素をその周りに円を描くように配した。その流れは、死の象徴である節くれた裸の木とともに右へ上り、枯れ枝は、永遠の命の約束とも読める常緑のトウヒの梢へ伸びる。メトロポリタン美術館が2001年に開いた展覧会「月を眺める人々」の図録で、学芸員ザビーネ・レーヴァルトは、左右対称でがらんとした画面の多いこの画家としては珍しく、本作は非対称で物が多いと述べる。景色は想像のものだが、枯れた樫などの要素は、別々の時と場所で写生した素描をもとに一つの画面に組み合わされた。月も正確に観察されている。三日月の暗い部分がかすかに光るのは天文学でいう地球照で、月の右に金星が見える配置は1年のうちでもまれにしか起きない。二人はリュッケンフィグーアとして背中を見せ、見る者はその自然との交感に自分を重ねることができる。
来歴
レーヴァルトによれば、本作は描かれてまもなく、画家の友人のノルウェー人画家ヨハン・クリスチャン・ダールに贈られた。所蔵館は1840年にダールから本作を得ている。画家はこの構図をもとに少なくとも2点の変奏を描いた。ベルリン旧国立美術館にある1824年頃の作では左の人物が女性に替わり、メトロポリタン美術館にある1825〜1830年頃の作とともに、同じ位置の月が夕暮れの空に浮かぶ。2019年6月から翌年6月にかけて、所蔵館は制作200年を記念し、収蔵品の月夜の風景画15点を一室に集めた展示「月に憑かれて」を開いた。
意義
所蔵館の解説によれば、二人は同時代の伝えでは画家自身と弟子の画家アウグスト・ハインリヒ(1794〜1822年)で、本作は当時の文学でもたたえられた、ロマン主義の芸術家の友情の伝統に連なる。二人の服装は「古ドイツ服」と呼ばれ、当時の学生が、復古に向かう政府への抵抗を示した装いだった。レーヴァルトによれば、1819年のカールスバート決議のあと、この服は「扇動家の制服」とみなされて禁じられたが、画家は死ぬまで人物に着せ続け、1820年に画室を訪れた人々には、絵の二人は扇動をたくらんでいると皮肉を言った。宗教的、自然神秘主義的、政治的と解釈は大きく分かれてきたが、レーヴァルトは、それらが小さな画面の素朴で深い瞑想の気分を覆い隠しがちだと述べている。