《二匹の猿》
アーチ形の窓の下に、鎖でつながれた二匹の猿がうずくまる。窓の向こうには、帆船の浮かぶ川と、遠くかすむアントウェルペンの町が広がる。
概要
《二匹の猿》は、ネーデルラントの画家ピーテル・ブリューゲル(父)が1562年に描いた小さな板絵で、ベルリン絵画館が所蔵する。館の記録では、オーク材の板に描かれ、縦19.9センチ、横23.3センチ。所蔵番号は2077で、1931年にパリの美術商から購入された。左下に「BRVEGEL MDLXII」(ブリューゲル、1562年)の署名と年記がある。館の解説(ライナルト・グロスハンス)によれば、ブリューゲルがアントウェルペンからブリュッセルへ移る少し前に描かれた。
画面の読み解き
館の解説によれば、アーチ形の窓の開口部に、鉄の輪に鎖でつながれた二匹の猿が座っている。重い鎖、どっしりした石積み、低い窓のアーチが、逃げ出せそうにない囚われの印象を強める。ブリューゲルは、囚われて生き生きとした性質を失った猿のふるまいと表情を、深い共感をもって描き分けている。窓の外にはアントウェルペンの町と港、高くそびえる聖母大聖堂の塔が見え、その手前をスヘルデ川が遠くへ流れ、水と空が溶け合う。日陰の狭い開口部と、鳥が飛び交い、遠い国への旅を思わせる船の浮かぶ明るく広い風景との対比が、二匹の囚われを強く感じさせる。
技法・様式
館によれば、形の手がかりには、イスラエル・ファン・メッケネムの版画《四匹の猿》や、デューラーの《猿のいる聖母子》があったかもしれないが、何より大切だったのは自然の観察で、描かれているのはアフリカ西部からコンゴ川下流に住むシロエリマンガベイである。館の修復部は、2019年の没後450年を前に、本作を年輪年代測定、X線、赤外線反射撮影、蛍光X線分析などで調べ、空と川に使われた青い顔料スマルトがいまは灰色に変色していることを明らかにした。修復家ベルトラム・ロレンツは、その結果をもとに制作の過程を同じ大きさの板で順に再現している。
来歴
館の記録によれば、本作は1931年にパリの美術商から購入された。館の修復部の頁によれば、調査と再現の板は、2018年10月から2019年1月にウィーン美術史美術館で開かれた展覧会「ブリューゲル 巨匠の手」に出品され、2019年9月10日から2020年1月5日にはベルリン絵画館で原画とともに展示された。
意義
館の解説によれば、本作が単なる動物の習作だったとは考えにくい。猿は、欲望に縛られ、獣のような欲求のとりこになった人間の象徴であり、ブリューゲルは、そばの割れた木の実が示すように、怪しげな値打ちしかない得のために自由を差し出す愚かな人間を、つながれた猿にたとえたとみられる。しかしよく見ると、鎖は輪に通した留め木で終わっていて、それを引き抜けば外れる。運命に身をゆだねた猿は、自分で自分を解き放てることに気づかない。館はここに、エラスムスやコールンヘルトの人文主義の著作に通じる、自分を省みてこそ正しい道に進めるという道徳哲学を読み取り、それがのちに「農民ブリューゲル」と浅く呼ばれた画家の深い寓意画を満たしていると述べる。