クレジット方針 収録範囲について お問い合わせ
作品COLLECTION 画家ARTISTS 流派MOVEMENTS 時代PERIODS 所蔵MUSEUMS 様式史HISTORY 用語集GLOSSARY 検索SEARCH

《熱帯嵐のなかのトラ》

Surpris !
《熱帯嵐のなかのトラ》アンリ・ルソー
Wikimedia Commons / ロンドン・ナショナル・ギャラリー / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
アンリ・ルソー
制作年
1891年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
129.8 × 161.9 cm
流派
素朴派
広告

灰色の空に白い稲妻が走り、風に木々がしなる。生い茂る草のあいだで、トラが背を丸めて身をかがめ、目をむいて牙を見せる。画面の全面には、雨を表す銀灰色の細い筋が斜めに重ねられている。

概要

《熱帯嵐のなかのトラ》(仏: Surpris !)は、フランスの画家アンリ・ルソーが1891年に描いた油彩画である。縦129.8センチ、横161.9センチのキャンバスで、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。館の題は「Surprised!(不意打ち)」。所蔵館によれば、ルソーが生涯に描いたおよそ20点の「ジャングル」の絵の最初の作品である。

画面の読み解き

所蔵館の音声解説によれば、画面の上の3分の1は石板のような灰色の嵐の空で、右上に2本、左上に1本の白い稲妻がジグザグに走る。左から吹く風に木々がしなり、左手の濃い色のイチジクの木はY字に幹を分け、虹のような弧を描いて空に枝を伸ばす。中ほどには、羽毛のようなパンパスグラスやヤシの葉が茂り、右寄りでは鮮やかな赤のヌマスギが目を引く。手前には、サンセベリアかリュウゼツランに想を得たとみられる細長い草が波打って並ぶ。そのあいだで、トラが背を丸めて低く身をかがめ、黄色い目をむき、赤い唇から白い三角の歯をのぞかせる。後ろ脚は跳びかかる前のように折りたたまれ、尾は背後の草のあいだをくねる。右下にはゴムノキの大きな葉が7枚広がり、左下には黒い字で「Henri Rousseau」の署名と1891年の年記がある。所蔵館によれば、トラが稲妻におびえているのか、獲物を狙っているのかははっきりしないが、後者の可能性が高い。右手の草の上の暗い部分は、のちに消された獲物の跡かもしれず、当時の批評にも獲物を追う場面とするものがあった。

技法・様式

キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、それまでのどの作品よりも複雑で動きに富む構図で、最も念入りに描き込まれた絵の一つである。ルソーは画面を区画ごとに順に仕上げ、投影した像の輪郭をなぞって写すパントグラフ(拡大写図器)も使った。トラが地面を踏まず、草の上に浮いているように見えるのはそのためかもしれない。描き終えた画面の全面に、半透明の銀灰色の斜めの筋を重ねて雨を表し、トラの縞や草の葉と響き合わせた。館は、この雨の描き方を、歌川広重の《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》(1857年)のような日本の木版画に通じるものとし、ヨーロッパに広く出回っていた浮世絵をルソーが知っていた可能性を挙げる(ジャポニスム)。

来歴

所蔵館によれば、1891年のアンデパンダン展に「Surpris !」の題で出品された。同展は、官設のサロンの狭い伝統主義に抗して、1884年に「審査なし、褒賞なし」を掲げて始まった展覧会である。研究者セルティニーは、ルソーが1895年に書いた略歴の出品作の一覧にある「探検家を追うトラ」を本作とみる。画家の没後は長く人目に触れず、見いだされたのは1925年ごろで、のちに「森の嵐」の題で呼ばれた。1931年にニューヨーク、1933年にバーゼルで展示され、1934年にフィラデルフィア近郊のヘンリー・クリフォードが手に入れた。1972年、ウォルター・H・アネンバーグの多額の寄付を得て同館が購入した。所蔵番号はNG6421で、第45室に展示されている。

意義

所蔵館によれば、ジャングルの絵は生前のルソーとその芸術に異国の雰囲気をまとわせたが、画家はフランスを出たことがなく、密林はすべて想像である。植物は家庭の観葉植物と、パリの植物園ジャルダン・デ・プラントで見た熱帯の植物を合わせ、トラは剝製や図版、飼い猫を組み合わせている。1891年の出品はルソーへの最初の真剣な批評を呼び、若い画家フェリックス・ヴァロットンはスイスの新聞に「彼のトラは見逃してはならない。絵画のアルファでありオメガである」と書いた。