《アルジェの女たち》
タイルで覆われた薄暗い部屋で、絹の衣と宝石をまとった三人の女が絨毯の上にくつろぎ、一人は水たばこの管を手にする。右では黒人の召使いがカーテンを開けながら、女たちを振り返っている。
概要
《アルジェの女たち》(仏: Femmes d'Alger dans leur appartement)は、フランスの画家ウジェーヌ・ドラクロワが1834年に描いた油彩画である。縦180センチ、横229センチのキャンバスで、ルーヴル美術館が所蔵する。1832年の北アフリカへの旅から生まれ、同年のサロンに出品された。ロマン主義の画家が東方の主題に向かう出発点となった作品である。
画面の読み解き
グラン・パレ国立美術館連合の歴史解説サイト『L'Histoire par l'image』(アラン・ガロワン)によれば、閉ざされたアルジェのハーレムの部屋で、三人の女が豪華な東方の絨毯の上に座る。刺繍のある薄い絹の上衣を、ふくらはぎの見えるゆったりしたズボンの上にまとい、たくさんの宝石で身を飾る。左の女は積み重ねたクッションにもたれ、ほかの二人は穏やかに語り合っているようにみえる。長い髪の右の女は、左手に水たばこの長い管を持つ。右端では、黒人の召使いが画面の外へ出ていきながら、女主人たちを振り返る。壁は繊細な文様のタイルで覆われ、扉の開いた戸棚の上の壁がんには高価な器が並び、その左には豪華な額縁の鏡が掛かる。床には脱いだ室内履きが落ちている。部屋に家具はないが、贅沢と異国の気配が漂う。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。ルーヴル美術館の報道発表によれば、本作の絵具の層はよく保たれていたが、何層もの酸化したワニスが画面を黄ばませ、暗く平板に見せていた。2021年4月から10月にかけて、フランス美術館研究修復センター(C2RMF)で傷んだワニスの大半が取り除かれ、新しい天然のワニスによって色の鮮やかさと対比がよみがえった。いまは変化に富んだ白や、背景の隅の戸棚、丸めた布、壁のタイルの違いも見分けられる。画家ポール・シニャックは、本作では暖かく明るい色調のすべてが、冷たく柔らかな補色と釣り合って装飾的な交響をなし、静かで心地よいハーレムの印象を生んでいると書いた。
来歴
同解説によれば、ドラクロワは1832年、国王ルイ=フィリップがモロッコのスルタンのもとへ送ったモルネー伯爵に同行して、生涯ただ一度の北アフリカの旅をした。アルジェではトルコ人の私掠船長のハーレムを訪ねることを許され、その経験が本作を生んだ。館によれば、本作は1834年のサロンで国に買い上げられ、リュクサンブール宮殿の現存作家の美術館を経て、1874年にルーヴル美術館に入った。いまはドノン翼のモリアンの間(第700室)に展示されている。所蔵番号はINV 3824。
意義
同解説は、本作がその後30年にわたる東方の主題の流れを見事に開いたとする。詩人ボードレールは本作を「休息と静寂に満ちた室内の小さな詩」と呼び、セザンヌは、その淡いばら色や刺繍のクッションが目に入ると、酒のようにすぐ酔わされると書いた。ルノワールは「世界にこれより美しい絵はない」と考えたという。館は、色彩の名手としての技巧が本作を印象派と新印象派の世代の手本にしたとし、ファンタン=ラトゥールが模写し、ルノワールが倣い、シニャックが色の対比の手本としたことを挙げる。