《トルコ風呂》
円い画面いっぱいに、浴場でくつろぐ裸の女たちがひしめく。手前では白いターバンの女が背を向けてリュートを弾き、右では腕を頭の後ろに回した女が、青い花柄の枕にもたれて横たわる。
概要
《トルコ風呂》(仏: Le Bain turc)は、フランスの画家ドミニク・アングルが1862年に仕上げた油彩画である。縦108センチ、横110センチの円い画面で、パリのルーヴル美術館が所蔵する。ナポレオン財団の解説は、裸婦に古典的な理想の美を求め続けたアングルの探求が、晩年の本作で頂点に達したとする。
画面の読み解き
所蔵館の記述によれば、画面には、背を向け、正面を向き、横を向き、座り、立ち、踊る裸の女たちが描かれている。手前の中央やや左では、白と金の縞のターバンを巻いた女がこちらに背を向けて座り、リュートを弾く。右手前では、腕を頭の後ろに組んだ女が、赤い布と青い花柄の枕にもたれて横たわり、その隣では首飾りをつけた女たちが身を寄せ合う。右奥には、頭に布を巻いて香炉を手にした女と、褐色の肌の召使いが立つ。左奥では腕を上げた女が踊り、そばで白い布を頭に巻いた女がタンバリンを打ち、ほかの女たちは床に寝そべって語らう。左下の水辺にも女が一人座る。背景の壁のくぼみには青い壺が置かれ、アーチの戸口の奥にも人影がのぞく。手前の低い台には、茶碗や小皿、壺が並ぶ。
技法・様式
所蔵館によれば、キャンバスに油彩で描き、木の板に貼り付けてある。ナポレオン財団の解説によれば、アングルはここで、18世紀にイスタンブール駐在のイギリス大使の妻だったモンタギュー夫人の手紙を読んで思い描いた東方を、自由に描いた。本作は、画家がそれまでに描いてきた体や姿勢を取り込み、組み直した集大成でもある。手前のリュート弾きは、1808年の《浴女》の後ろ姿を用い直したもので、線とアラベスクと曲線の組み合わせに、円い画面が呼応している。
来歴
所蔵館とナポレオン財団によれば、本作ははじめ長方形の画面で描かれ、1859年12月にナポレオン公に納められた。財団によれば、公妃クロチルドがこの浴場の情景に眉をひそめ、絵は1860年のはじめに画家へ戻された。所蔵館によれば、公は1860年にこれを画家の肖像画(現在はシャンティイにある)と交換している。アングルは画面を円形に作り替えて1862年に仕上げ、左下に「J.Ingres Pinxt MDCCCLXII Aetatis LXXXII」(1862年、82歳)と署名した。1864年にアトリエで一部の人々に披露されたのち、トルコの元大使ハリル・ベイが買い、1868年の彼の売り立てを経てセー家とブロイ公の手に渡った。1911年、ルーヴル美術館友の会がダヴィッド=ヴェイルの協力を得て寄贈した。所蔵番号はRF 1934である。
意義
ナポレオン財団によれば、本作は発表前から醜聞の気配をまとっていたが、一般に公開されたのは1905年のサロン・ドートンヌが初めてで、ピカソやマティスを熱狂させた。財団によれば、モンタギュー夫人の手紙は、1716年にアドリアノープル(現在のエディルネ)の女の浴場を訪ねた様子を詳しく伝えており、本作の最大の着想源となった。