《ぶらんこ》
- 作者
- ジャン=オノレ・フラゴナール
- 制作年
- 1767–1768年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 81 × 64.2 cm
- 所蔵
- ウォレス・コレクション
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- ロココ
木々の茂る庭で、桃色のドレスの女性が宙高くぶらんこをこぎ、片方の靴が飛んでいく。左の茂みでは若い男が見上げて帽子を差し出し、右の暗がりでは年配の男が綱を引いている。
概要
《ぶらんこ》(仏: Les Hasards heureux de l'escarpolette)は、ジャン=オノレ・フラゴナールが1767〜1768年頃に描いた油彩画である。縦81センチ、横64.2センチ。ロンドンのウォレス・コレクションが所蔵する。茂った庭でぶらんこに乗る若い女性と、ぶらんこを揺らす年配の男、茂みから見上げる若い恋人を描いた作品で、所蔵館は18世紀フランス美術を最も象徴する図像の一つとしている。ロココの官能と軽やかさを凝縮した風俗画である。
画面の読み解き
木々と草花が生い茂る庭の中央で、桃色の絹のドレスに麦わら帽子をかぶった若い女性が、宙高くぶらんこをこいでいる。右下の暗がりでは、腰かけた年配の男が綱を引いてぶらんこを揺らし、左下の茂みでは若い男が身を横たえて、女性を見上げている。所蔵館によれば、ぶらんこの勢いで女性の片方の靴が脱げて宙を飛び、下の恋人は思いがけない眺めを得て、喜びのしるしに帽子を差し出す。左の台座には、唇に指を当てた愛の神クピドの像がのり、中央には天使たちの像が、右下には小さな白い犬がいる。雲の浮かぶ空から差す光が、女性のドレスを明るく照らしている。
技法・様式
所蔵館によれば、渦を巻くような対角線の構図や、桃色と青緑の大胆な色の対比は、師フランソワ・ブーシェから受け継いだロココの語彙である。左のクピド像は、ポンパドゥール夫人のためにファルコネが作った彫刻《威嚇するアモル》にもとづき、生い茂る庭は、当時フランスで好まれはじめたイギリス風庭園の趣味を映す。2021年夏の修復で黄ばんだワニスが除かれ、ドレスのレースや奥行き、背景の細部が鮮やかによみがえった。修復の際の調査では下描きや習作はほとんど見つからず、画家が画布の上でじかに、迷いなく描き進めたことがうかがえる。
来歴
所蔵館によれば、劇作家シャルル・コレの1767年10月の日記は、ある宮廷の紳士が、まず画家ガブリエル=フランソワ・ドワイヤンに、司教が押すぶらんこに乗った愛人の姿を、その脚が見えるように描いてほしいと頼んだことを伝えている。驚いたドワイヤンは依頼を断ってフラゴナールを紹介し、フラゴナールが引き受けた。注文主は長く、聖職者の徴税請負人だった富豪フランソワ=ダヴィッド・ボリウー・ド・サン=ジュリアンと考えられてきた。今日の題は、1782年に出たニコラ・ド・ローネーの版画から広まった。作品は1865年に第4代ハートフォード侯爵が購入し、所蔵番号はP430。
意義
きわどい注文から生まれた私的な小品でありながら、本作は恋の戯れと装飾の美を一つの画面に結晶させ、ロココの時代を代表する図像となった。修復によって、ぶらんこを押す男の服が黒ではなく青であることもはっきりし、この人物を司教ではなく、年の離れた夫などとみる読みが改めて注目された。ウォレス・コレクションは、フランス以外のヨーロッパで最大となる8点のフラゴナール作品を所蔵している。