《ブレダの開城》
- 作者
- ディエゴ・ベラスケス
- 制作年
- 1635年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 307 × 367 cm
- 所蔵
- プラド美術館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- スペイン・バロック絵画
煙の立ちのぼる広い土地を背に、身をかがめて町の鍵を差し出す将と、その肩に手を置いて迎える甲冑の将軍が向き合う。左には敗れたオランダ兵、右には長い槍を林のように立てたスペイン兵が並ぶ。
概要
《ブレダの開城》(西: La rendición de Breda)は、ディエゴ・ベラスケスが1635年頃に描いた油彩画である。縦307センチ、横367センチ。マドリードのプラド美術館が所蔵する。1625年6月5日、長い包囲の末に開城したオランダの要塞都市ブレダで、守将ユスティヌス・ファン・ナッサウが、スペイン軍を率いたジェノヴァ出身の将軍アンブロージョ・スピノラに町の鍵を渡す場面を描く。スペイン軍の側に立ち並ぶ槍から、《槍(ラス・ランサス)》の通称でも知られる。スペイン・バロック絵画を代表する歴史画である。
画面の読み解き
画面の中央で、茶と金の模様の上着を着たナッサウが身をかがめて鍵を差し出し、黒い甲冑に赤い帯をかけたスピノラが、帽子と指揮棒を手にしたまま、もう一方の手を相手の肩に置いている。左にはオランダ兵が、斧槍や旗を手に思い思いの方向を向いて群れ、右にはスペイン兵が並んで、その背後に何本もの長い槍がまっすぐ空へ立つ。右手前では、スピノラの大きな栗毛の馬がこちらに尻を向けている。両軍にそれぞれ一人ずつ、こちらを見つめる兵士がいる。遠景には、煙の立ちのぼる水びたしの広い土地が青くかすむ。右下の隅には、何も書かれていない白い紙片が描き込まれている。
技法・様式
所蔵館によれば、スペイン王家はブエン・レティーロ宮殿の「諸王国の間」を飾るため、国王フェリペ4世の軍事的な勝利をたたえる戦勝画の連作を注文し、ベラスケスはこの重要な主題を任された。大画面と主題の重み、宮廷画家たちが腕を競う場であったことから、画家は描写の力と空気遠近法の巧みさ、そして物語を語る力を存分に示した。所蔵館は、右下の紙片を、画家が作者であることを誇らしく示す署名の代わりとみている。手前の人物群をくっきりと描き、遠景を青い大気の中にかすませることで、画面には広い奥行きが生まれている。
来歴
所蔵館によれば、作品は王室の収集に属し、1701年にはブエン・レティーロ宮殿にあった。1772年と1794年には新王宮に、1814年から1818年にかけてはマドリードの王宮にあったことが記録されている。その後、1819年に開館したプラド美術館の所蔵となった。カタログ番号1172。
意義
戦勝を記念する絵でありながら、本作は勝利の誇示よりも和解を描く。所蔵館は、背景の煙が破壊と戦争と死を示す一方、手前の将軍は敵将を親しみにも似た態度で迎えており、ひざまずこうとする相手を押しとどめて、ふさわしい敵への寛大さを示していると解説する。同じ出来事を扱ったヘルマン・フーゴの戦記やカルデロンの戯曲も、敗者への敬意を強調していた。所蔵館は、言葉を重ねず、二人の将の身ぶりだけで深い政治の思想を伝える形式を見いだした点に、ベラスケスの天才を見ている。